新車の試乗をした

ターター・モータースの10万ルピー車ナノが世間を騒がせている中、会社の同僚のプラシャーント君が55万ルピーもする車を買った。
―――それは1ヶ月前のランチタイムのことだった。プラシャーント君がご飯、ヨーグルトとアチャールを指でグチャグチャと混ぜながら突然
「車を買いたいんだよ」
と言い出した。皆はスプーンを動かすのを止め
「エ!?運転できるんだっけ?」
と訊いた。
「いや、これから教習所に通うんだよ。免許は10年前に取ったんだけどね。友達に口を利いてもらって。グフフゥ」
皆はそれを聞いて飽きれかえった。プラシャーント君は
「でね、どの車がいいかなぁ?」
と訊いてきた。そこで私は
「スズキのスウィフトがいいんじゃない?」
とオススメしておいた。プラシャーント君は
「ウゥン、そうじゃないんだよ。もっと新しくて、誰も持っていないモデルが欲しいんだよ。」
と贅沢なことを言っていた。
次の週。驚いたことにプラシャーント君は車を買ってしまった。アイスブルーという色をしたシボレーの小型車だ。お値段55万ルピー!最近結婚した彼のこと、お嫁さんの持参金で買ったのかと疑ってしまった。私は口に出さなかったのだが、他の友達は
「あなた、義理のお父さんに買ってもらったんでしょう?」
とズケズケと訊いていた。プラシャーント君はいつものように
「グフフゥ」
と笑っていた。
その後、プラシャーント君は早朝教習所に通って車の運転の猛特訓をしていた。そしてある日、ついに会社に車に乗って来た。
幸せは皆と共有して祝うインドのこと、記念にコーヒーを奢ってくれるというので、3時に会社の門の前で待ち合わせて試乗に行って来た。
車に乗り込むと新車のニオイが鼻を襲ってきた。車のシートのビニールは既に外されていた。運転席に座ったプラシャーント君はまず車の装備の説明をしてくれた。曰く、車の後部に障害物が近づくとセンサーが反応して光る装置をバックミラーにつけたらしい。早速、車の後ろに立って動作を確認したらバックミラーの上でLEDが赤や緑に光っていた。
カーオーディオは、Kenwoodのものを搭載していた。リモコンも付いていた。プラシャーント君は自慢げにリモコンを操作してMP3を再生した。流れたのは『Dhoom』の歌だった。音楽が否応にもテンションを盛り上げる中、プラシャーント君は
「どぅーむまちゃ〜れ〜、どぅーむまちゃ〜れ〜♪」
と歌いながらサイドギアを勢い良く下ろし、車を発進させた。ガクン、ガクンという衝撃とともに車は前進した。
プラシャーント君はギアを変える度に、いちいち手元を見下ろしていた。車は右へ左へ揺れながらゆっくりとホワイトフィールドの道路を走った。やがて後方から銀色のサントロ(ヒュンダイ)がやってきて、せっかちそうにクラクションを鳴らした。プラシャーント君は焦っているようだった。大丈夫かな・・・?車に乗り込んでいる皆は生命保険に入っているかどうか確認し合った。プラシャーント君がヨロヨロと左に除けたため、サントロは無事にプラシャーント君の車を追い越して行った。この瞬間、皆はホッとした。だが、すぐに後ろから茶色をしたEICHERのトラックがやってきた。さんざんクラクションを鳴らしたあと、これもまた我々の車を追い抜かして遠い彼方へ消えて行った。
やがてスピード・ブレーカーが前方に現われた。スピードブレーカーはインドの道路ではお馴染みである。注意深くスピードを落としてから乗り越えないと車を傷めてしまう。そこで順調に徐行してスピード・ブレーカーの上に乗り上げたプラシャーント君の車だったが、「ガガガガッ」という心地よくない震動を受けることになった。4人が乗っているせいか車体が下がり、異様に盛り上がっているスピードブレーカーが車体をこすったのだ。あ〜あ!
次は中央分離帯がある道路でUターンすることになった。ハンドルを思いっきり切ったのだが道幅がUターン半径よりも数センチ狭かったらしい。ズズズーッという音がした。縁石に車をこすってしまったのだ。あ〜あ!
・・・一同、無言となってしまった。高い車が傷つくのを見て胸が痛んだからだ。一番平気を装っていたのはプラシャーント君だ。結局ITPLというインフラ施設にあるカフェ・コーヒー・デイに連れて行ってくれ、コーヒーやサモーサーなどのスナックを奢ってくれた。
インドでは新車を買った後、交通安全を祈ってプージャー(祈祷)をしてもらうことがあるらしい。金の縁がついた赤い布きれがバイクに巻きつけてあったり、色の粉で車に模様が描かれてあるのはプージャーをしたためらしい。どうやらプラシャーント君の車のプージャーはまだらしい。早くプージャーをした方が良さそうだ。新車が廃車になる前に・・・。

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2 Responses to 新車の試乗をした

  1. 閑話休題 says:

    中国では「初心者マーク」やら「若葉マーク」なんていう「謙譲の印」を見かけることはないのですが、逆に、最初は何のことか分からなかったのが「磨合マーク」。つまり、新車を買ってから走行距離が数千キロに達するまでは、「エンジンの馴染み期間」ということらしく、時速80キロ以下の低速運転を心がけるようです。買ったばかりだよぉと、車泥棒にアピールしているようなものだと思うのですけどね。笑
    日本にもあるのかどうか知りませんが、そのスピードブレーカーとやらは当然のごとく中国にもあります、しかもあちこちに。夜間など、知らずに減速しなかったらひどい目にあいそうですが、アメリカあたりなが訴訟問題に発展するのではないでしょうか。中国の場合、道路に穴があったら「気づかずに落ちたヤツが悪い」というのが原則ですので、スピードブレーカーも堂々たる社会的立場を獲得しているようです。

  2. kahkashaan says:

    インドでは仮免である印としてバイクや車に赤いテープをL字型に貼っています。
    スピードブレーカーとはちょっと違いますが、愛知県岡崎市のショッピングモールに行った時に駐車場に入る道が異様に盛り上がっていることに気付かされました。車体を低くしている暴走族の車が入れないようにするため、と地元の友達が説明してくれました。

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