まとまりましょう 3

出直し
社長秘書嬢とウッタラーンチャル嬢は、夜8時を過ぎても布をどれにするか決めることが出来なかった。そこで次の週に出直すことになった。
布を買ってしまったマッディヤ・プラデーシュ嬢、カンナディガ嬢と私の3人は、来る必要がないと思われたのだが、まだ布を仕立屋に出していなかったので再び出直すことになった。
仕立屋は街のいたるところにあるが、ガグラー・チョーリーの仕立て方を知っているところは見つからない。どこも「サンプルがあれば縫える」と言っていて心もとない。バンガロールでガグラー・チョーリーを仕立てるには、ムスリムが多いコマーシャル・ストリートに行くにかぎる。
ということで、布を買ってしまった3人もコマーシャルストリートに来ることになった。当初の計画では、まだ布を買っていない2人が12時に来て買い物をし、2時に全員が集合し仕立て屋に行くことになっていたが、2時に待ち合わせ場所に行ったら、ナント布を買っていない2人がまだ来ていないことが判明した。
4時に全員が揃い、やっと社長秘書嬢とウッタラーンチャル嬢も布も買うことが出来た。社長秘書嬢はオレンジ色、ウッタラーンチャル嬢は緑色の、ネットに刺繍をほどこしてある布を買った。そして店から紹介してもらった仕立屋に出した。仕立料金は600ルピーだった。ネットなため、下に布を重ねなければならない(「ライン」と言うらしい)。その布代も入っているので高くついたみたいだった。
衣装が出来上がった
5着の衣装を仕立てに出したにも関わらず、またダシャヘラーをはさんでいたにも関わらずガグラー・チョーリーは4日で出来上がってしまった。早い!
水曜日、会社の帰りに衣装を取りに行くために4人で一緒にコマーシャル・ストリートに行った。最寄のバス停で会社の送迎バスを降り、4人でオートに乗ってコマーシャルストリートを目指した。4人でオートとは、ちょっと窮屈だが、楽しい。「今日、社員食堂の昼食から変な臭いがした」などという話をしながら、走っているとオートが乗用車と接触し、運転手同士の口論が始まった。口論が長引きそうだったので、私達は肩をすくめてオートを降り、あとは歩くことにした。お腹が空いていたので、道端で炭火で炒られて売られているピーナツと、スパイスがまぶしてあるポップコーンを買って食べながら歩いた。
私達のガグラー・チョーリーは約束どおり出来上がっていた。その場ですみずみチェックしてみたが、纏り縫いもシッカリしていて上出来だった。頼んでもいないのにガグラーの腰の部分に10センチくらいのジッパーが取り付けられていた。また、チョーリー・ブラウスの、深くえぐれた背中部分にも、頼んでもいないのに紐がついていて背中で結べるようになっていた。「気に入らなかったら切っても良い」と店の人が言っていた。
赤のガグラー・チョーリーを仕立てた子のチョーリーブラウスのお腹の部分が、頼んでもいないのに尖ってカットされていて、形といい色といい、金太郎の腹当てを彷彿とさせた。
衣装とともにアクセサリーも・・・
私はアクセサリーに疎く、ピアスの穴がふさがるまでピアスを付けなかったり、逆にピアスを何日もつけっぱなしにするのだが、インド人女性は概してお洒落サンで、服にマッチするアクセサリーに気を遣っている。友達の誕生日に薄い紫のアクセサリーをプレゼントしたら
「この色の服を持っていないから、違う色に取り替えたい。」
と言われたこともある。
アクセサリーと言ってもネックレスと耳飾りのセットが好まれており、耳飾りとは全然別のタイプのネックレスをしていると「オヤ?」と思われる。逆に、プレゼントに貰ったりしたアクセサリーのセットを身に付けようものなら、物凄く褒められる。
ガグラー・チョーリーが出来上がった今や、私達はお揃いのアクセサリーを買わなければいけなくなった。そこで、仕立て屋に行ったその足で私達は煌びやかに光っているブライダル用アクセサリーの店に入った。店の人も心得ていて、ガグラー・チョーリーの色を見せたらすぐにそれにマッチするアクセサリーをカウンターにずらりと並べてくれた。そこで首にまとわりつくような重い首飾りと、やはり重い耳飾りと、髪の分け目に飾るマーング・ティーカーのセットを買った。全部で600ルピーだった。新入社員でお給料がまだ低いマッディヤ・プラデーシュ嬢は出費がかさみ悲鳴をあげていた。社長秘書嬢は、ここでもお気に召すものがなく出直すと言っていた。
アクセサリーをそろえた後はチューリーヤーン(ガラス製の細い腕輪の束)も買うことになった。店の棚にはチューリヤーンが入ったタッパーが並んでいた。それぞれ色の名前が書かれたシールが貼られており、その整理術に好感を持った。シールにはピンク、ゴールドなどとも書いてあったがバエンガニー、バーダーミー、フィーローザとも書いてあって雅だなぁと思った。
ここでも服の色を見せたら店の兄ちゃんが、マッチする色のチューリヤーンが入ったタッパーウェアを出してきた。カンナディガの女性は、赤い布に取り付けられたピンクやブルーのスパンコールに合わせるため赤のチューリヤーンにピンクやブルーのチューリーを混ぜるようにと注文していた。すると店の兄ちゃんは3、4個のタッパーウェアを取り出し、中のチューリヤーンの包みを破いては2、3本おきに違う色のチューリーを混ぜてカスタムメイドのチューリーヤーンを作っていた。それを見ながら「ピンクが強すぎるから、1本抜いて」
などとカンナディガ嬢は注文していた。チューリヤーンを買ったことは何度もあるが、このように色を自在に組み合わせて購入するのは初めてだった。ここで両手用のチューリヤーンを購入し210ルピーかかった。
衣装合わせ
次の日、会社のトイレで衣装合わせをした。出来立てのガグラー・チョーリーを着てブライダル用のアクセサリーを見につけてみたら、まるでボリウッド女優。これでは結婚式に着て行けないなと思った。なぜなら花嫁よりも目立ってしまいそうだからだ。
衣装合わせをしている時にトイレに入って来た人は驚いて立ち尽くしていた。他のダンス・グループの子もトイレに入って来た。かかった金額を尋ねられたりしている間、邪視をビンビンに感じた。
ガグラーは踊るには長めだった。「カジュラー・レ〜、カジュラー・レ〜」の振り付けをするために膝を曲げるとスカートの裾を踏んづけてしまう。他にも衣装に関する問題がないかチェックするため、衣装を着たままちょっと練習をすることにした。だが、皆トイレの鏡に映し出される自分の姿に魅せられてしまい、練習にならない…。手足が動かす代わりに髪型を整えたりドゥパッターを整えてばかりいる。本番まであと2日。これで大丈夫か?
誰が前に立つか
踊りの振り付けと練習は本番前日まで全く進まなかった。このままでは私達のパフォーマンスは4分で終わってしまう。せっかく入念に準備して着飾って踊るのに4分とは寂しい。もっと見せたい。そこで社長秘書嬢が以前踊ったことがある曲を、急遽踊ることになった。社長秘書嬢は振り付けを知っているので良いが、覚える側は大変だ。見本を見せてもらった後、いつでもどこでもイメージトレーニングをして本番に備えなければならなかった。
問題となったのは並び順である。私は最初から後列が良かったのだが、他のメンバーは皆が皆、前列で踊りたいらしかった。ダンスグループで実権を握っている社長秘書嬢はモチロン前列中央なのだが、他の誰が前列で踊るのかが問題となった。ウッタラーンチャルの子が、社長秘書嬢によって後列に配置された。ひと一倍自己顕示欲が強い彼女のこと。練習中にも、リハーサル中にも、踊っているうちに自然と前に出てきてしまう。人事部の人の前でオーディションをしている時にも前に出てきたので、彼女は社長秘書嬢にピシャリと叱られた。人事の人や他の人の前で叱られたため、彼女は酷く自尊心を傷つけられ、その後の練習に集中できないようでいた。はたして彼女は本番に踊れるのだろうか?
本番の日
ついに来た本番の日。私達の出番は1時半からと聞いていたので、午前中の用事を早く切り上げ、お昼ごはん抜きで会場のホールに駆けつけた。だが、出番は2時40分に延長されていた。最後の最後までこのパターンである。トホホ。
楽屋にウッタラーンチャル嬢がケロリとした顔をしてやってきた。昨日、皆の前で叱られた件は水に流してしまったみたいだった。お昼を食べていない人のために、ケーキの差し入れも持ってきてくれた。一時はグループにヒビが入ったと思ったが、なんともなくて良かった。
ステージの脇にある楽屋には他のグループの子もいたが、メンバーが時間になっても集まっていないとかで、ヒステリックを起こし甲高い声で叫んでいた。
叫び声を聞きながらサッサと着替え、アクセサリーを身につけてメイクをした。メイクをしてから服を着ると服が汚れてしまうと思ったからだ。だが、他の人は順番が逆で
「服はメイクの後よ」
と社長秘書に注意された。衣装は一度着てしまえば良いが、メイクはきりがない。やはり衣装の方が先の方が良いと思うが・・・これは、メイクをしている間に汗をかいて衣装にシミを作ってしまうせいなのだろう。
時間はタップリあったはずなのだが、準備をしている間にいつの間にか順番が巡ってきた。人事の人に召集をされた私達はドキンとした。社長秘書嬢は、同イベントに何度も出演しているにもかかわらず特に慌てていた。私はと言えば、結婚式でカメラを盗まれたプラシャーント君のことを思い出し、荷物に南京錠をかけてから、ステージの袖に行った。
出番が来た
袖から覗いた観客席は、社員とその家族、友人で一杯だった。しかも熱狂しており、声援を送ったり口笛を吹いたりしている。
私達は、戸惑いながら暗いステージの中央に進み出て所定位置に立った。所定位置に付くやいなや、間髪を入れずに音楽が始まった。まるで音楽に踊らされるというカタチになった。
会場はますます盛り上がりを見せて音楽が声援にかき消されるほどだった。音楽がサビのパートに入り、心が落ち着きかけたとき、突然ガシャンッと言う凄い音がした。当時にステージの電気が落ち、音楽も突然止まってしまった。停電が起きたのだ。観客席からは失望のため声が漏れた。
私達は凍ったように、そのままのポーズで立ち尽くした。すぐ復旧するかと思ったからだ。だが、なかなか再開しなかったのでステージの袖に引っ込むことにした。
変な形で出番が止められたため、メンバーはますます緊張しており
「あぁ、どうしよう、どうしよう」
と言っていた。そこで気を静めるために、私達5人は輪になって手をつないだ。
やがて電気が戻ってきて音響の人から準備OKサインが出た。私達は
「大丈夫、やればできる」
と繰り返し言いながら繋がれた手を振った。バラバラだったグループがやっとまとまったと思った瞬間だった。そして私達はさきほどよりも落ち着いた状態でステージの中央に出た。そしてボリウッド女優になった気分で踊ったのであった。
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(完)
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3 Responses to まとまりましょう 3

  1. 閑話休題 says:

    1週間ほど留守にしておりましたが、その間に「怒涛の続編」が2編もアップされており、しっかり円満完結していました。いや、めでたい。笑 それにしてもインド人、これほど時間にルーズでありながら、朝に米国から受けた仕事を夕方にはデリバリーする(つまり、アメリカ人が出勤するとちょうどインドから返答が来ている)と聞きますから驚きです。
    日本の企業や官公庁が発注したシステムを、中国にアウトソーシングすることの弊害、つまり機密の漏洩が問題になっているそうですが、インドに切り替えたとしても、今度はインドが中国に丸投げするケースも多いのだとか。ともに時間にだらしないインドと中国を経由した場合、納期はどうなってしまうのでしょうかね。笑 伝言ゲームも苦手そうだし。
    PS ダンスコスチュームの写真がアップされておらず、至極残念!

  2. kahkashaan says:

    受けた仕事を夕方にはデリバリーすることについては・・・成熟したマネジメントの仕組みとそれを遵守させるマネージャーの手腕さえあればインドはやれば出来ると思います。言われたことをやるのは得意ですからね。
    今回の踊りの件は、型がないまま始めたのとリーダーの不在が原因だと思われます。私を含め、リーダーの素質のある人がいなかったんですね(笑。
    アジア・パシフィック地域を統括している私の上司曰く、「中国やベトナムも技術が進んできたけれどマネジメントはまだまだインドの方が進んでいる。そこでインドは中国やベトナムに進出してチームのマネジメントをし、インドが受注した日本向けのお仕事をしているんだ」、と。どのくらい意思疎通できているのか一度現場を見てみたいものです。うちの会社は台湾・韓国絡みの仕事は、先方に信用してもらえず情報を共用してもらえないので難航していると言っていました。一番うまくいっているのは日本企業とのお仕事みたいです。
    写真は、最近手に入れましたのでアップしました。

  3. 閑話休題 says:

    長編の記事で経緯を知っているせいか、写真の面々がとても他人とは思えません。笑 ブログ主さんであろうと思われる方のコスチュームは、一瞬、和服ではないかと錯覚いたしました。真中の赤いドレスが、あのお方ですね。
    「一番うまくいっているのは日本企業とのお仕事」とのことですが、意地悪な見方をすれば、それだけ日本人の危機意識が低いのでしょうか。アウトソーシングとは、即ちノウハウの流出に他なりませんから、痛し痒しですなあ。

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