パキスタンのヒンドゥー

最近パキスタンのヒンドゥーに関する記事を2本、目にした。パキスタンのヒンドゥーは、私にとってバンガロールに住むパキスタン人と同じ位、興味をそそられるトピックである。
2006年1月23日号の『Outlook』の特集は、「パキスタンのヒンドゥー教徒の少女、誘拐され改宗し強制的に結婚させられる〜スィンド州内部からの独占リポート」というものだった。スーパーのレジの隣で見かけたので、早速購入してみた。
20060220-outlookJan23sml.jpg
これはパキスタン、スィンド州ミールプールハース(میرپور خاص)に取材に行ったマリアーナ・バーバル(مریانہ بابر)というジャーナリストによるレポートであった。
見出しのとおり、誘拐されイスラームに改宗させられて結婚させられた13歳の(!)ヒンドゥー教徒女の子マーシューのことを主題にしている。
マーシューの父親によると、12月22日夜11時、武装した4人の男が自宅に押しかけてきて彼女を車で連れ去っていったらしい。マーシューが結婚させられたは、その4人のうちの1人の、もともと隣に住んでいたアクバルだった。
隣人アクバルの言い分によると、彼はマーシューのことがずっと気になっており、おりしもマーシューの方からアクバルの家にやって来たので結婚することにしたのだとか。
誘拐された先が隣の家というシチュエーションは想像し難いが、13歳の女の子が駆け落ちをしにアクバルの家に行ったという話も想像し難い。
この事件の決着を法的につけるため、マーシューは1人ハイダラーバードの法廷に送られ、証言をすることになった。マーシューは法廷で自発的に家を出たことを認めたらしく、判事は2人が一緒に住むことを認める決断を下した。
記録によると、同様のケースは2000年から2005年の間に50件あったらしい。ただ報告されないことが多いため、実際のところは相当数あると見られている。
マーシューのように、証言をするため法廷に送られた少女達のうち90%が自発的に家を出たことを認めているらしい。だが法廷は実は公正な場ではなく野次馬を飛ばす人がいて、付き添いもなくやってきたヒンドゥーの少女が証言できる状況ではないのだとか。
「もし、そのような結婚が自発的なものだとすればなぜヒンドゥーの男の子が改宗するケースがないのか。」
とビール族のヒンドゥーの議員クリシャン・ビール(کرشن بھیل)は問いかけている。だが、ヒンドゥー・コミュニティの方にも責任がなくはない。
ヒンディー語映画『Pinjar』を観た方ならストーリーを思い出していただければ分かりやすいが、一度拉致誘拐された少女にとってもはや結婚するのは難しく、実家に戻ったとしても彼女の居場所はない。その現実を知っている少女達は身に降りかかった不幸を受け入れてしまうしかないのだ。
マーシューの住んでいるミールプール・ハースはいつも参拝客で賑わっているヒンドゥー寺院が10箇所もあり、信仰に関しては自由な風土があった場所らしい。それが最近では、ヒンドゥーの少女たちは誘拐を恐れて外出するのを避けるようになっており、また親は親で娘が大きくなると学校に行かせないようにしているらしい。
救いなのはパキスタン国内の人権活動家が彼らを助けていることだ。このレポートを書いたマリアーナ・バーバル自身もインド人ジャーナリストなのかと思いきや、調べてみたらパキスタン人のジャーナリストであった。(将軍の娘さんらしい。)
                20060224-dulhan_smlbw.jpg
              
Outlookにはパキスタンのヒンドゥーに関する統計資料が載っていた。
パキスタンには現在260万人ものヒンドゥー教徒が住んでおり、パキスタンの人口に占める割合は2.5%らしい。2%と言われているインドのスィク教徒の割合よりも多いのだ。
ヒンドゥー教徒はパキスタンの全域に散らばっているものの、95%がスィンド州に集中している。特にタルパールカル(تھرپارکر)地区は人口の51%はヒンドゥーで、ムスリムをわずかにしのいでいる。
その他のヒンドゥーが多い地区はマーシューの住んでいる町ミールプールハースで41%、サーンガル(سانگھر)で35%、ウメルコート(امرکوٹ)で43%だそうだ。
多くはないがヒンドゥー人口が認められる都市には、カラーチー(کراچی )、ハイダラーバード(حیدراباد)、ジャーコーバーバード(جاکوباباد?)ラーホール(لاہور)、ペシャーワル(پشاور)、クエッタ(کویتہ)がある。
パキスタンにいるヒンドゥーの82%はカーストが低く大抵は小作農をして生計をたてている。ただしタルパールカル地区に限っては、ヒンドゥーでも土地を所有している人がいる。また、前述のクリシャン・ビールや、ギヤーン・チャンド(گیان چند)、ラメーシュ・ラール(رمیش لال)はパキスタンの議会、コォミー・アセンブリー(قومی اسمبلی)の議員だそうだ。
               ○     ○     ○
もう1つ、私が最近目にしたパキスタンのヒンドゥーに関する記事は、タイムズオブインディアの『Other Side of Pakistan』という記事だ。こちらはパキスタン人の記者による記事ではなく、ヨーギンダル・スィカンドというインド人による、ほのぼの記事であった。
ヨーギンダル氏はパキスタン旅行に行ったらしい。
スィンド州セヘワーンシャリーフ(سہوان شریف)において彼は聖者ラールシェヘバーズカランダル(لال شہباز قلندر)の廟でイスラーム教徒に混じってヒンドゥー教徒のダリトが祈っているのを見た。
ウデーロー・ラール(اڈیرو لال)では、イスラーム教徒からはスーフィー聖者として、ヒンドゥー教徒からはインダス河の神として崇められているサーイーン・ジューレー・ラール(سائیں جھولے لال)の聖者廟を訪れ、ヒンドゥー寺院とマスジドが横付けされている寺院コンプレックスなるものを見物したらしい。
スィンド州で2番目に大きい都市ハイダラーバード(حیدرآباد)の郊外に行ったヨーギンダル氏はビール族の自宅を訪れ、赤い布にくるまれたビール族の女神であるジョーグマーヤー(جوگ مایا?)を奉っている小さな泥製の祠と、スィンド州のスーフィー聖者にささげられたブランコがあるのを目にした。
その夜、彼の目前で蛇捕りカースト出身のイスラーム教徒の苦行者ラール・サーイーン・サーハブ(لال سائیں صاحب)と、ヒンドゥーの苦行者バークトー(بھاکتو)、それからビール族の人達によるラーム、クリシュナ、マハーデーヴを称えるバジャン、預言者ムハンマドやスィンド州のスーフィー聖者を讃える歌の合唱が行われたらしい。
ヨーギンダル氏はパンジャーブ州にも行ったようだ。ラーホール(لاہور)に行った彼は聖者廟マードー・ラール・フサイン(مادھو لال حسین)に行き、そこに眠っている或る恋人に関する逸話を聞いた。今日では1つの名前として覚えられているがマードー・ラール・フサインのマードーは、ヒンドゥーの男性の名前で、フサインはムスリムの男性の名前だった。2人の関係はとても親密であったためヒンドゥーやイスラームの聖職者の逆鱗に触れることとなったが、民衆の心は勝ち取ったため、彼らの廟はこうして今でも多くの人を集めている。
彼がこのパキスタン旅行記で言いたかったことは、パキスタンは中東地域のアラブやイランの文化に属すのではなく、インドと同じ文化に属するということだ。
「スィク、ヒンドゥー、ムスリムは綺麗に分類され、お互いに重複している点を持たないコミュニティーである」という概念は間違いであり、植民地時代の分割統治政策、スィクやヒンドゥーとムスリムのエリート層による政治的たくらみ、また、統治者から贔屓にしてもらおうという互いの競争心が生み出した結果にすぎないことをヨーギンダル氏は読者にいま一度思い出させていた。
               ○     ○     ○
というわけで、あまり知られていないがパキスタンには結構ヒンドゥーが暮らしているようである。Outlookには、マーシューのようなケースがあるためヒンドゥーはパキスタンをどんどん去りつつあると書かれてあった。残念なことである。是非、密集地帯を周遊して、エールを送ってきたいものである。

This entry was posted in 新聞雑誌より. Bookmark the permalink.

2 Responses to パキスタンのヒンドゥー

  1. NEEN says:

    お久しぶりです。
    キツイ記事ですね。でも表沙汰にならないだけで、結構ありそうなことですね・・・。
    ラホールでの常宿には一人ヒンドゥー教の男性が働いてました。清掃マンとして。他にもクリスチャンの男性も清掃マンとして働いてました。
    セヘワーンのシャーバスカランダルのウルスにはヒンドゥー教徒も毎年大勢駆け付けてますよ。
    セヘワーンのウルスのときは皆、24時間Jure Lalなので問題はなさそうですが、なんせほんまに人がつめかけるので、毎年聖者廟内で人に押されて圧死する人もいるのだとか。

  2. kahkashaan says:

    NEENさん、こんにちは!
    私の知っているパキスタン人のお家の家政婦さん(といっても女の子)は結構クリスチャンが多かったです。ヒンドゥーには、まだ会ったことがありませんね。でも某グリーンホテルの床をかったるそうにボロ雑巾をブーラブラさせて水拭きしている男性が実はヒンドゥーだったりするのかな。
    ウルス行かれたのですか。NEENさん、凄いですねぇ。ブログ記事今後も楽しみにしています。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>