八街のミニアチュール画家

「八街(やちまた)に細密画を描いているインド人がいるんだってよ、知ってた?」
と、同郷の村山先生が教えてくれた。全然、知らなかった!
その細密画家とはムハンマド・アリー・ハーン・ゴォリーさんのこと。ジャイプル生まれで、5歳の頃から独学で細密画を学んだ。日本人女性と結婚したため来日、今は千葉県八街市にアトリエを構え、個展や創作にと忙しく暮らしている。そんな彼の個展が先月末、ギャラリー銀座にて開かれていた。
ギャラリー銀座は趣のある古い洋館だった。エレベーターが何階にいるのかを示すものが、ランプではなく左右に振れる矢印だった!エレベーターをあまり稼動させたくないのか「5階までの御用は階段を使うように」と貼り紙がしてある。老朽化したエレベーターに閉じ込められてもなぁ、と思ったので運動不足の身体に鞭を打ち、エンヤコラと階段を上った。
個展会場は6畳あるかないかの小さな部屋。ムハンマドさんが部屋にデーンと立っていて、まだ息が整わぬ私に名前を聞いてきたかと思うと、矢継ぎ早に話しかけてきた。
「あなたの色は青とオレンジね!あなた、最近こういうことなかったですか?○△☆◇\○□※○×・・・」
それを聞いて呆気にとられていると
「あ、絵を見るのがまだでしたね。どうぞ。」
と解放してくれた。そしてムハンマドさんが次に会場に入ってきた人に
「あなたの色は緑と黄色ね!あなたはこういうタイプでしょ?◎△$☆◇\○□※○×・・・」
と話しかけるのをBGMに、彼の作品を鑑賞した。他の人は意外と素直に「ウソ〜ォ何で分かるんですかぁ?」と反応していた。シマッタ、私は反応下手だったかも!
会場に展示されていたのは鳥の絵、裸婦像、王族を描いたミニアチュール、象牙に描いた絵、梵字をあしらった絵など。
裸婦像はホコリほどの細かい線で描かれていて驚嘆したのだが、細かすぎるのも風紀上問題だなぁと思ったりして。ミニアチュールのボーダーの部分は土産品ミニアチュールとは異なり装飾が精密に施されていて息を呑む美しさだった。象牙の作品は、象牙が貴重なだけあって、小さいかけらの限られたスペースに細かく描かれていた。来場客はそれをルーペで鑑賞するのだ。
「描いていて目が悪くならないんですか」
と尋ねたら
「今は悪くないけれど、悪くなったら描くのを引退しますよ」
なんてことを言っていた。
梵字をあしらった絵は色使いが独特。でも、やや昔のインドらしさを醸し出している。そこに細い目をしたゴルゴ13そっくりの横顔が覗く。ムハンマドさんの顔のつもりなのか尋ねたら、
「イイエ。私、いつもこの顔に見られているんですよ。いっつでも。」
と答えていた。
ボーダーの部分に植物模様を描くのに使われている金色の顔料は、すずや銅や銀などを混ぜて何日か置き、上澄みを捨てて作ったものだそうだ。また象牙に絵を描く時は、象牙の油分が絵の具をはじいてしまうので象牙を何日もゴシゴシ洗うのだそうだ。ラーホールのナショナル・カレッジ・オブ・アーツを卒業したファルークさんは白の顔料を作る時はポスカを水に溶いて何日か置き、上澄みを捨てて不純物を取り除いていると言っていた。また紙(ワスリー)は何枚かを糊で貼り付けシワを伸ばして慎重に作ると言っていた。厚紙で代用できないものかと訊いたが、そうするのが伝統だからと話していた。細密画には描くだけではなく準備にも時間がかかるようだ。
ムハンマドさんは細密画を描く時に用いる、リスの毛を使った筆のことについても色々教えてくれた。
「学生はリスの毛の筆というだけで細密画が描けると思って喜んで買っていくが、あんなのは駄目。僕は、僕が認めた職人が作った良いものしか使わないんです。でも、その職人も頑固だから、最初から良いものを見せてくれない。何度も自宅に招待して、やっと売ってもらうんですよ。いい筆っていうのは、水に浸して逆さにしても、しならない筆。若いリスの生きたまま刈られた毛を使ったやつが一番いい。死んだリスの毛は駄目。でも良い筆を使ってても、象牙なんかに描いたりすると1日で磨り減って駄目になってしまうんですね。」
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ムハンマドさんは、東京、神戸と個展をした後、ニューヨークやベルギーで個展を行う予定。弟子や助手は、教えている暇がないので今はいらないそうだ。

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4 Responses to 八街のミニアチュール画家

  1. arukakat says:

    ムハンマドさんのセリフは意味不明で面白すぎ。日本語で会話してたんでしょうか?

  2. kahkashaan says:

    会話は全て日本語でした。
    達者なものでしたよ。

  3. distinyresearch@yahoo.co.jp says:

    突然ですみません・・・
    アリ氏の個展情報を知りたいんでが・・・ご存知でしょうか?

  4. kahkashaan says:

    2005年開催の個展の葉書に載っていたアトリエの連絡先をメールしました。そちらをお試しください。

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