MERU TAXI

ムンバイーで、MERU TAXIを利用してみた。
これまでのインドのタクシーとはずいぶん違ったモダンなサービスを提供する会社との評判で、3年ほど前に創業。現在、本社のあるムンバイー以外では、ハイデラーバード、デリー、バンガロールで操業している。
たまに市内で走行しているものの、今なお黒と黄のツートーンのタクシーが大勢を占める大海中の一滴にしか過ぎないマイノリティなので、必要なときに巡り会う機会はそうそうない。ちょうど空港に向かう用事があったので予約してみることにした。
電話が繋がると『よう、何だ?』とぶっきらぼうなオジサンの声が聞こえてくるのではなく、女性の声による丁寧な自動音声ガイダンスが流れ、これまた礼儀正しい担当オペレーターに繋がるのにびっくりする。
コールセンターの案内嬢に、私の氏名、予約したい時間、出発場所、電話番号等を伝えれば完了だ。出発30分前に携帯電話にSMSでクルマのナンバー、運転手氏名と本人の携帯電話番号が届くということだ。
予約時間の30分前きっかりに、私の携帯電話にメッセージが届くとともに、ほぼ同時に運転手からも確認の電話が入った。
到着したタクシーは、マヒンドラー社のローガンという車種。タイのバンコクで走っているタクシー想像していただきたい。日本でいえばカローラくらいのサイズだ。エアコンも効いており、クルマの内外ともに、けっこうキレイにしている。運転席横には、液晶モニターがあり、さきほど私が伝えた名前、出発地と時刻等が表示されていた。
運転手は他の多くのムンバイーのタクシー運転手同様、北インドから来ている男性であった。パリッとした白い制服のシャツを着用している。ヒンディー語しか解さないが、言葉遣いや態度もとても丁寧。もちろん運転も同様にジェントルであった。
料金システムは、ムンバイーの場合は、最初の1キロが20ルピーで、以降1キロごとに14ルピーである。インドでは、タクシーもオートも地域によって料金システムが異なる。このMERU TAXIが現在操業している他の三都市(ハイデラーバード、デリー、バンガロール)での料金形態については、同社ウェブサイトに示されているのでご参照願いたい。
MERU TAXIの車両の動向は、GPSでモニターされていることから、遠回りされたりすることはないということになっているそうだ。特に女性が夜間利用する場合などにも良いのではないかと思う。
タクシーが目的地である空港に着いた。料金を支払うと、運転席にある装置からプリントアウトされた領収書が手渡される。
降りてしばらくすると、携帯電話に新しいSMSが着信。何かと思って開いてみると、MERU TAXI発のもので、利用してみた感想を記号で返信してくれというものであった。最大の評価で送信しておいた。
タクシーを利用するのは、ある程度余裕のある人たちであるとしても、その中でもこれまでのタクシーのありかたにはいろいろ不満のあった人も多いはずだ。鉄道がそうであるように、長距離バスもそうであるように、タクシーにもちょっとラグジュアリーなクラスのものが欲しいと。こうした従来のものと差別化した手法によるサービスは、特に可処分所得の高い人たちの数が多い都市では相当な需要が見込めるであろう。
この会社では、コールセンターの受付嬢のみならず、肝心のドライバーたち自身にも、ちゃんとした社内教育を施しているようだ。ハンドルを握る彼ら自身にとっても、乗客を目的地まで快適かつ安全に運ぶプロの運転手としてのスキルを得てキャリアを積む良い機会でもあることだろう。
もちろん彼らは会社のシステムと車両に搭載されている独自の機器により、常に所属する会社から監視されているという意識もあるだろうが、これは利用者にとって都合の良いことでもある。運転手側にしてみても、こうしたシステムにより、従来よりも高い信頼を得ることができ、顧客が増えることにより彼ら自身の増収にも繋がることだろう。
これまでのスタンダードとは異なる、いわば『規格外』のサービスが他の大都市にもどんどん広まっていくことを期待したい。
この会社は、そのサービスの点以外で、タクシー業者のありかたとしても、これまでのものと大きく異なる部分がある。通常、タクシーといえば、オートリクシャーと同じく、ドライバーたちは、ユニオンに加盟するオーナーたちが所有する車両を運転しているわけである。
個々のオーナーたちを事業主とする零細会社と言うべきか、あるいはオーナーたちからクルマを借りて運転しているドライバー自身を、ちょうど日本の宅配便運転手たちのような個人事業主と表現すべきなのかはともかく、一般的に大資本を投じて運営する日本の『日の丸タクシー』のような業態のものではなかった。
組織立った形態であるがゆえに、お客に対してはサービスの向上と均質化、社内ではノウハウの共有と労務管理の徹底が図りやすいという利点がある。また『どこの誰のクルマであるか』がはっきりしていることから、利用者側の安心感も大きいはず。
そんなわけで、都市部では今後、タクシー業界の再編とでもいうべき、新たなうねりの予感がする。MERU TAXIの走行地域の広がりを見て、同様のサービスを提供しようと参入する新会社が今後続くのではないかと思うのである。
一昨日、Premier Padminiのある風景にて、現在ムンバイーを走るタクシーの圧倒的主流を占めるパドミニーが、今後次第に姿を消していくことについて触れたが、それと反比例する形でこうした新手のサービスが台頭してくるであろうことは言うまでもない。
今後何年もかかって新旧のタクシーの移り変わっていくわけだが、それは単に車種が新しいものに入れ替わることに留まるものではなく、タクシー業界のありかた自体が大きく変わるのではないかと予想している。

Premier Padminiのある風景

ムンバイーのタクシーといえば、黒と黄色に塗り分けられたプリミアー自動車生産したプリミアー・パドミニーである。イタリアのフィアット社のFiat 1100をインドで現地生産したモデルだ。本国では1962年から1966年まで生産されていた。
昔々に設計されたクルマらしく、クロームメッキの大きなフロントグリルが雄々しくてマッチョな面構えだ。前後ともにツンと鋭角的に切り立ったフォルム、後部サイドフェンダーの張り出には、今の時代のクルマにはない強烈な個性が感じられる。イタリアのデザインらしいアクセントの効いた、都会の景色がよく似合うクルマだ。
黄色い天井以外は深みのあるブラックでまとめられた精悍な車影は、ゴシック、ヴィクトリアン、アールデコ、果てまたインド・サラセンといった様々な様式の重厚な建築物が林立するムンバイーの街角によく似合う。
クラシカルな建物の都会風景にマッチするクルマである
インドにおいてこのクルマの生産は1964年に開始されている。今から半世紀近く前に設計されたクルマではあるが、愛好家が丹念に磨き上げて週末に郊外に遠出してツーリングを楽しむといった具合に丁重に扱われるのではなく、現役のヘヴィー・デューティーな営業車としてバリバリ活躍しているのがカッコいい。
もっともムンバイーのタクシー界を支配してきたパドミニーは、やがて道路から姿を消す運命にある。というのは、すでにこのクルマの生産は、2000年を持って終了しているためだ。フィアット1100D=プリミアー・パドミニーという単一車種で、イタリアでの発売時から数えて38年間もの長き渡り生産されてきた世にも稀な長寿モデルであった。
ムンバイーに限ったことではないが、電子化される前のいかつい金属製のアナログ式料金メーターもまた見事にクラシックである。こうしたメーターが導入されたのがいつの時代であったのかはよく知らないのだが、おそらくその当時の金額をゆったりと刻んでいく。
メーターに示される数字をもとに、現在適用されている料金を導き出す換算表を運転手たちは持っている。そこに示されているとおり、このタイプのメーターが使われ始めたころ、ルピーの価値は今の14倍前後あったということなのだろう。
タクシー料金換算表
今のところはムンバイーの道路を走るタクシーの大勢を占めているのは黄・黒に塗られたパドミニーで、まだまだ意気盛んな印象を受けるものの、スズキのヴァンのタクシー、青色のAC付きのものなど、複数のタイプが走るようになっている。
年月の経過とともに、このパドミニーの占める割合は漸減していき、10年、15年もすれば、『こんなクルマ、あったよねぇ!』と古い写真で、昔の街角の中にあったタクシーの姿として未来の人々が思い出すようになるのだろうか。
2001年以降、生産されていないクルマであるがゆえ、目下ムンバイー市内でごく当たり前にどこにでも見られる『パドミニーのある風景』だが、現在走行している車両たちの寿命が尽きるまでの眺めなのである。

NIAの海外旅行保険

日本発の海外旅行保険を扱う保険会社は、AIU、三井住友海上、ジェイアイ傷害火災、損保ジャパン等々いろいろある。
同様に日本で営業するインド系の保険会社でも扱っていることはかねてより耳にしており、だいぶ前に『ニッポンで稼ぐインド国営会社』で取り上げたことがあるが、先日初めて同社の海外旅行保険のパンフレットを手にして眺める機会があった。ちなみに、これはウェブサイトからも閲覧することができる。
海外旅行総合保険 (ニューインディア保険会社)
インド最大の保険会社であり、ムンバイーに本社を置く国営のNIA (The New India Assurance Company Limited)の日本支社、ニューインディア保険会社の商品だ。
私自身、ニューインディア保険会社はまったく利用したことがない。身の回りでこの会社の保険商品を利用したという人もいないため、その評判を耳にしたことはないが、どんな具合なのだろうか?

IRCTC

以前、線路は続くよ、どこまでも?で取り上げてみたとおり、インド国鉄の子会社IRCTC (Indian Railway Catering and Tourism Corporation)のウェブサイトにログインして、eチケットを購入できるようになって久しい。
ネット予約が始まったころは、インド国外発行のカードでは支払いができなかったり、ウェブ上で予約しても、チケットは指定の場所に配達してもらう、といった具合だったりして使い勝手はよくなかったが、今ではずいぶん便利になったものである。
そのままプリントアウトして列車に乗り込めばいい、という点からは、ネット予約後に『みどりの窓口』で支払いをして、正規の乗車券等を受け取らなくてはならない日本のJRよりも簡単であるといえる。もちろん改札が自動化していないがゆえに、普通紙に印刷したものがチケットとして通用するわけではあるが。
ただ、簡単になったとはいえ、ちょっとコツが必要なこともあるのはインドらしいところか。サーバー容量の関係か、果てまた通信に何か障害があるのかわからないが、予約作業中にエラーが頻発することがある。時間帯を変えるとまったく問題がなかったりするのだが。
日時・列車等を選択
乗車日時、列車名、座席・寝台のタイプを確定し、乗客の氏名や年齢等を入力し、『Payment』ボタンを押して、支払いに進んだ際に、この画面を目にしてちょっと面食らう人もあるかと思う。
Payment Gateway、ずいぶん沢山・・・
要は、クレジットカード、銀行のカードその他といった、使用するカードの種類により、支払いのチャンネルを選びなさい、ということである。クレジットカード用にいくつかの銀行系のPG (Payment Gateway) が用意されているが、いずれも利用できる・・・というわけではない。少なくともインド国外発行のクレジットカードの場合は。
以前は『CITI PG』が問題なく使えていたのだが、今はこれを選択すると何回繰り返しても、カードの残高が不足だの番号が間違っているだのといった身に憶えのないメッセージが出てきて立ち往生してしまう。そんなわけで、目下、利用できるのは『AXIS PG』である。
もっと支払いがうまくできなくて困っていても、そのまま放置されるわけではないのはありがたい。この手のエラーが生じると、自動的にIRCTCからのメッセージが配信され、トラブル解決のためのコールセンターの電話番号と問い合わせのメールアドレスが記されている。電話はなかなか通じないものの、メールで質問すると、比較的早く返事を寄越してくれる。
予約のキャンセルも同様にスムース。IRCTCのウェブサイトにログオンして手続きをすると、即座にリファンドについての連絡が届き、キャンセル料と手数料を差し引いた金額が返金される。
何かと便利になっているが、ひとつ制約があるとすれば、ネット予約に割り当てられている座席・寝台数だろう。全体の何割ほどがウェブ予約用に充てられているのかよくわからないが、窓口ではまだ購入できたりしても、IRCTCのサイトでは、路線によってはかなり早い時期からキャンセル待ちあるいは予約不可の表示が出るようだ。
そんなわけで、旅程が決まったら、予約はなるべくお早目に。

NyayaBhoomiのオートリクシャー

以前、オートリクシャー・スター・クラブ? デリーの路上の星たちならびにオートリクシャー・スター・クラブ? 頑張る路上の星たちで『オートリクシャー・スター・クラブ』を取り上げてみた。
Autorickshaw Star Clubとは、NyayaBhoomiというNGOによるオートリクシャーのサービスの改善を目指す試みで、乗客の利益、運転手の待遇改善と生活向上、業界の社会的なステイタス向上などを目指しての社会的運動といえる。
具体的には、適正運賃、つまり乗客に吹っかけるのでもなく、オートリクシャー営業のコストに見合わない安すぎる料金でもなく、走行距離に従って双方にとって合理的な金額を適用、運転手の身元や走行地点が逐一明らかになるとともに、乗客側についても車載カメラでモニターすることにより、両者ともに安心して走行できること、適正な営業とサービスの向上により、業界そのものの認知度を高めて、社会的な立場や発言力を高めることなどを企図している。
通常は経済力の向上とともに交通機関も近代化し、オート三輪タクシーは消え行く運命にあるのが世の常ではある。だがインドにおいてはまだその兆候もないが、変わりゆく世の中で、来年開催を控えているコモンウェルス大会に合わせてということではないが、首都のタクシーやオートリクシャー、とりわけ主要駅や繁華街近辺などで客待ちしている運転手たちの態度や仕事ぶりについては、なんとかして向上すべきだと思う。
以下、NyayaBhoomiのウェブサイトにも掲載されている彼らの取り組みを紹介するビデオである。

以下、ビデオの内容の要約である。
鉄道でチェンナイから上京してきた男性ムットウーが、駅舎を出てからオートリクシャーをつかまえようとする。コテコテのタミル訛りのヒンディーで運転手に話しかけると、ずいぶん高いことを言われて往生する場面から始まる。運転手とトラブルになった後、声をかけてきたオートリクシャー・スター・クラブの運転手からデリーのオートリクシャー業界の抱える基本的な問題点を彼に説明する。
時はかわって2010年。デリー市内在住の姉のところに滞在中の男性は、用事先までのバスについて尋ねると『オートリクシャーで行けばいいのに・・・』と言われる。デリーのオートは嫌なのだと答えると『今はずいぶん事情が変わった』と告げられる。ムットゥーは再びオートリクシャーに乗ってみることにする。
電話連絡してから、ほどなくやってきたオートリクシャーを運転するのは、かつてデリーの駅前で吹っかけてきた相手。しかし今ではすっかりマジメなドライバーになっている。オートリクシャーにはGPSシステムによる自動運賃計算、走行位置や車載カメラによる乗客の様子などは逐一警察にモニターされており、料金は適正、女性一人での利用も安心。料金は、現金以外にクレジットカード、デリー・トラベル・スマートカード等でも支払うことができる。
かつては休日なしでコキ使われていた運転手も、今では定期的に休日が与えられ、家族との時間を大切にできるようになった。運転手自身の生命保険、その家族の健康保険等の福利厚生も導入された。運賃は、かつての2割増になっているが、それでも乗客たちはとても満足。車両に貼りだされた広告収入もあり、運転手は収入増で生活も安定・・・といった近未来のオートリクシャーの描写。

なかなか面白い内容だったので、せひ皆さんにもご覧いただきたいのだが、ビデオで使用されているヒンディー語がわからない人には理解できないと思うので、NyayaBhoomiに英語版のビデオは作成していないのか夜半に質問をメールで送信してみると、なんと早朝には回答が届いていた。
残念なことにビデオはヒンディー語によるもののみで、英語版は特に製作していないとのこと。ただし非ヒンディー語話者に対するアピールの必要性は認識しているとのことで、英文字幕入りのものを作ることを予定しているとのことである。
NyayaBhoomiの担当者から届いたメールには、2ヵ月以内に『Radio Auto』のサービスを開始するとも書かれていた。おそらく上記のビデオにあるような近未来的なシステムを装備したオートが登場するのではないだろうか。
こうした試みがスムースに浸透していくのかといえば、そうではないだろう。例え利用者たちは歓迎しても、大多数を占める従来のオートリクシャー運転手や組合等にとって、自分たちの商慣習を否定する彼らの存在は疎ましいだろう。
デリーのオートリクシャー業界の新参者であるオートリクシャー・スタークラブの運転者たちは、路上で様々な嫌がらせを受けるかもしれないし、これを運営する団体NyayaBhoomi自体も、すでに同業者や関係者たちから妨害を受けているのかもしれない。
変な言い方かもしれないが、現状のレベルが低いがゆえに、ちょっと努力すればその『伸びシロ』はとても大きなものであるはず。前途に待ち構えているであろう、いくつもの困難を乗り越えて、着実に歩みを前へ前へと進めて欲しいものである。
同様に、彼らの取り組みが首都デリーのみならず、将来的には広く全国に波及していくことを願いたい。