あとはアルナーチャル・プラデーシュが門戸を開けば・・・ 1

2011年は、ナガランド、マニプル、ミゾラムの3州にて、従前は入域に際して外国人に義務付けられていたPAP (Protected Area Permit)、RAP (Restricted Area Permit)が暫定的に不要になっている。インド人も同様に必要であったILP (Inner Line Permit)も同様に要らなくなっているようだ。これは2011年末までの1年間に限った臨時的な措置ということになっている。

3年ほど前にアルナーチャル・プラデーシュが近くなる?と題した記事で書いたとおり、近年は簡略化される傾向が認められていたものの、RAP取得にはいろいろ面倒な条件があった。かなり前から周到に準備しないと入ることができなかったし、複数の同行者が求められたり、現地のかなり高額なツアーに参加することが必要であったりもした。

今はインドの他州と同じように普通に出入りできるアッサム、メーガーラヤ、トリプラー(一部に不穏な地域も抱えているが)の3州についても、かつてはオフリミットの地であった。それが90年代前半に先述の中央政府内務省からの特別な許可が不要となった。

ここ数年の間に許可取得の条件が緩くなってきていたことから、ナガランド、マニプル、ミゾラムの3州への入域に関して、今回の暫定的な措置が今後も延長あるいは恒久的なものとなることを期待したい。

この措置により、地域の観光業の振興が期待されているところである。もう何年も前からインド政府観光局はインド北東部の魅力を積極的にアピールしてきていたが、アッサム、メーガーラヤ、トリプラー以外の州については、入域に厳しい制限があることから、まさに絵に描いた餅といった具合であった。

許可なしで簡単に入ることができるようになっても、肝心の観光資源のほうはどうなのかといえば、あまり華やかなものではないような気もするが、中国の雲南省やタイ北部のように山岳少数民族の存在自体が、観光業発展のための大きな力となるように思われる。

ただしインド北東7州、俗にセブン・シスターズと呼ばれる地域(アッサム、メーガーラヤ、トリプラー、ナガランド、マニプル、ミゾラム、アルナーチャル・プラデーシュ)の中で、個人的には一番興味深いと思われるのは、やはりアルナーチャル・プラデーシュだろう。

中国占領下のチベット(中国は『チベット自治区』を自称)に突き出す形で位置する、ブラフマプトラ河流域の低地から海抜4,000mを越える高地までを抱える、主にチベット・ビルマ語族から成る65もの(100以上という説もある)異なる部族が暮らす土地だ。

同州西部にはチベット仏教を信仰する人たちが多く、タワン僧院という有名な寺院があることでも知られているが、いっぽう州東部には南方上座部仏教を信仰する人々が暮らしている。さほど広い地域ではないにもかかわらず、伝播したルートの異なるふたつの仏教が同居しているのは興味深い。その他の人々は土地ごとのアニミズムを信仰している。

他の東北州と異なり、内政面での不安は少ないにも関わらず、未だに外国人ならびにインドのその他の地域の人々の入域が厳しく管理されている背景には、この地域が中国との係争地帯であるという現実がある。アルナーチャル・プラデーシュの人々に対して、中国がヴィザ無し入国(中国にしてみればアルナーチャルは自国領なので自国民の国内での移動という解釈ができる)を認めたり、同州議会選挙についてこれを否定する声明を出したりといった活動等により、『アルナーチャルは我が国固有の領土の一部』であると内外に主張を続けている。

また中国占領下のチベットに大きく張り出している地理的な条件により、軍事的な要衝であるということも、たとえ観光目的であっても外部の人々を積極的に呼び込むのは容易でないという部分もあるのかもしれない。

それでも先述のように、民族的にも文化的にも非常にバラエティ豊かな土地であり、気候条件も多様性に富んでいるため、もしアルナーチャル・プラデーシュが観光客に対してオープンになる日が来たならば、やや大げさな言い方をすれば、アジアの観光地図にひとつの国が新たに書き加えられたような効果をもたらすのではないかと、私は考えている。

<続く>

インドのヴィザ2

パソコンの性能向上のためか、それとも回線の高速化もあってか、最近、ヴィデオ・チャットの性能がとてもよくなってきた。

韓国のソウル在住の親友L君とは、しばしばパソコンの画面で向き合って、ビール等を手にして『それじゃ、乾杯!』などとやっている。互いに酒をカッタワッタ(行ったり来たり)させることはできないものの『一緒に飲んでいる』ことになるのは間違いない。便利な時代になったと思う。

先日も画面越しに飲みながらの会話中、『最近、インドのヴィザ要件が替わったんだよね』という話題になったとき、L君は、『これのおかげで当分問題ないんだよ。indo.toに書いてみたら?』と彼のヴィザを見せてくれた。以前、彼から『ソウルで5年間有効の観光ヴィザを取得した』という話を聞いてはいたが、実物を目にしたのはこのときが初めてだった。

日本で発行されるインド・ヴィザと同じシール式の台紙を貼りつけてある。カテゴリーの欄には『Tourist』という記載があるため、紛れもない観光ヴィザだが、有効期間は発行日から5年間の入国可能回数はMultiple。日本と同様に韓国でも、通常の観光ヴィザは発行から6か月間有効(滞在可能日数はその期限内)であるため、非常にレアなものである。Each Stay Not to Exceed 90 Daysとも書かれており、一度に3カ月以上滞在することはできないようになっている点もまた、他の人々が手にする観光ヴィザと異なる。

また、2010年1月以降発行されたヴィザと違い、NOT VALID FOR 2ND ENTRY WITHIN TWO MONTHS OF LAST EXIT FROM INDIAという記載がないため、2か月ルールが適用されないという解釈が可能だ。(本当に適用されないかどうかは未確認)

在ソウルのインド大使館で、『5年有効の観光ヴィザを発行するのは初めて』と言われたそうだ。L君によると『その後も誰も同じものを取得していないはず』とのこと。もっとも、彼がこのヴィザを取得できたのは、自身がインド研究者であり、今後も渡印する機会が多いという背景があり、加えて彼自身が持つ高い交渉能力の賜物でもあるのだろう。

いろいろと規則に煩いものがある反面、ときにこうした規格外(?)のものも存在するというのはインドらしいところだ。

<完>

インドのヴィザ1

10月1日からインドのヴィザ申請書類の変更があちこちで話題になっている。

様々な情報がウェブ上等で飛び交っているものの、当の『インドビザ申請センター』(日本およびその他の多くの国々でインドヴィザ受付業務は民間委託されている)でも、10月1日からの変更点について、ウェブサイトに記載しているものの、詳細についてはよくわからないようだった。(10月第1週現在)

観光ヴィザでさえも、往復のフライトの予約確認書あるいは訪問先からのオリジナルの招聘状と招待者のパスポートコピー、ホテルの予約確認表、申請者が学生・主婦・無職の場合は預金残高証明書といったものが必要となる。

こうなると『近隣の第三国から陸路入国する予定である場合どうするのか?』『ホテルは何泊分の予約が必要なのか?』『訪問する友人宅でパスポートを持っている人がいない場合は?』『預金残高とはいくらあればいいのか?』などといった疑問を抱くのが普通だ。

そのあたりの詳細についは、今後次第に明らかになってくるはずだ。このたび新たに要件が追加となっているだけに、本国から各国の大使館への指示、それに対する大使館での解釈の間にいろいろ齟齬が生じている可能性もあるし、今後それらについて新たな調整が加わる可能性もある。よって10月の現時点とこれ以降では、細かな部分で細かな違いが出てくるかもしれない。現状ではかなり流動的な部分があると見たほうがいいだろう。

これらの変更の背景にあるのは、第一に治安対策に他ならない。各地で相次いでいるテロ事件について、周辺国を拠点とする組織の関与があるとされるため、外国人の出入りについては、『観光客』という身元のはっきりしない不特定多数の人々が一度入国してからは行動を把握することはできないため、まず入口の部分で従前以上にスキャンをかけておく必要がある。

これまでテロに関与してきた人々とは、必ずしもインドに敵対する組織が存在する周辺国に限らない。以前はノーマークだった米国やカナダ等といった国籍を持つ南アジア系の人々が2008年11月に起きたムンバイーの大規模なテロ事件を背後で操る黒幕の中に含まれていたことは大きな衝撃であった。メディア等には出ていないが、犯行の中核部分以外においても、それまで警戒の対象外であった国籍の人々の関与が疑われる事例等がいくつかあったとしても決して不思議ではない。

そのため第三国の国々についても聖域を設けずに疑ってかかるという姿勢を取らざるを得なくなってきていることは容易に想像できる。幾度も繰り返されるテロ事件に対する政府への批判も強く、国内的にも外国人の出入国に関する政府の厳しい姿勢をアピールする必要がある。

インドと友好的な関係を持つ日本だが、前者にとって潜在的に懸念する対象となりえる南アジア起源の勢力が後者の国内に皆無というわけではない。それらはインドに対して敵対的な姿勢を示しているわけではないものの、かなり広範囲な流れを包括するその筋からは、諸外国でかなり問題のあるグループも派生している。

加えて、対外的な経済の開放と国内経済の継続的な成長に伴い、外国人の間でビジネスチャンスが増えている。それらはとりもなおさず、非インド国籍の人々についても、投資や高度な知識や技術等を有して正当なヴィザを取得してインドに在住している人たち以外にも、おこぼれ的な就労機会が生じることを意味する。そのためこの部分に対する引き締め策というところも、多少なりとも含まれているかもしれない。

インドに限りない愛着と憧憬をおぼえる日本人のひとりとしては、より多くの日本の人々がインドを訪れる機会を得て、その様々な魅力に触れたりすることが、もっと深く踏み込んで何か特定の事柄について研究するとか、あるいは日印間の事業等に乗り出して、両国の絆を深めるきっかけとなればいいと思っている。

そのためにも、ヴィザの申請要件変更については、個々の人々のインドとの出会いにおいて、最初のとっかかりである『インド訪問』をしようという気を削いでしまうような気がしてならない。

おそらくインド国内的にも、訪問する外国人たちに関わる仕事、主に観光業関係を中心に懸念する向きは少なくないだろうし、政府内でもインド観光の推進の旗振役である観光省にとっては、2010年1月から導入された出入国に関する2カ月ルールと合わせて、今回のヴィザ申請要件の変更はちょっと気になるところであろう。

あるいは今後、空港でのあらの適用となる国籍が拡大されることにより、従来の観光ヴィザに代える役割を持たせようという含みもあるのかもしれない。シングル・エントリーで滞在最大30日間までで延長不可、前回の出国から2か月以上の期間を置いて、年間に2回まで発行可という、通常の観光査証よりも条件が制限されたものである。

現状では、到着空港でのヴィザ取得はやたらと時間がかかる。査証発行担当官が本人と直に面談して判断できるというメリットはあるものの、今のやりかたでは多くの観光客が空港での査証取得を求めた場合、とても対応しきれない。

またアライバル・ヴィザそのものの要件についても、今後何らかの変更が生じる可能性は否定できないだろう。今後インドを観光で訪れる方は、到着してから困った事態にならないように、事前に確認しておいたほうがいい。

変更の背景にある国内事情、基幹産業のひとつ(これに依存する割合が非常に高い地域も少なくない)である観光業への配慮、そして入国する外国人たちの実情(問題国以外の国籍の人々に対する条件緩和)といったあたりで、擦り合わせを重ねたうえで、より実際的かつ合理的なものへと移行してくれるようになるとありがたい。

なお、観光ヴィザだけではなく、その他のヴィザについても変更部分が生じている部分があるため、申請時にはご注意願いたい。

<続く>

11年間の旅路の後、妻のもとへ戻るカナダ人男性

ベビーカー(西欧のものは往々にして大型で頑強な造り)を押しながら世界徒歩旅行を敢行してきたカナダ人男性。すでに11年間の行程は自国カナダ横断の終了直前で、間もなくスタート地点であったケベックの自宅に到着するとのこと。

Jean Beliveau, Canadian Man, To Finish Walk Around The World (GLOBAL PULSE)

Global 11-year trek coming to an end for Canadian Jean Béliveau (DIGITAL JOURNAL)

Canadian nears end of 11-year walk (CBCnews)

事業に失敗した後、いわゆる『ミッドライフクライシス(中年の危機)』に陥ったのを機に、世界徒歩放浪の旅に出たとのこと。詳細なルートはよくわからないが、インドも歩いたのだろうか。

出発当時45歳であった彼も今は56歳となり、老境も目の前。毎年、妻から4,000ドルを送金してもらい、あるいは出会った人々の好意にも支えられて、歩きとおしてきたそうだ。

その妻との再会もすぐ目の前のところまで来ているらしい。インターネットの普及により、メールやチャット、スカイプ等による相手の顔を見ながらの通話も安価に可能となったこの時代ではある。それでも、放浪中の主人と自宅を守りながら日々仕事に出かける奥さんが、11年間も夫婦関係を維持できているというのは実に大したものだ。

無事帰宅した後、夫婦仲睦まじく、末永く元気に暮らして欲しいと思う。

キングフィッシャー・レッド ローコスト路線廃止へ

Kingfisher Airlines

ちょっとビックリする反面、やはりそうかという思いもする。

Kingfisher Red to shut operations: Mallya (DAILY NEWS & ANALYSIS)

After Kingfisher Red’s exit, no-frill carriers to expand operations (DAILY NEWS & ANALYSIS)

キングフィッシャー・エアラインといえば、2005年に運行を開始した、まだ新しい航空会社ではあるが、もはやインドを代表する航空会社のひとつとして、内外に広く知られている。

ご存知『キングフィッシャー』ブランドのビールを製造するユナイテッド・ブルワリーズ・グループが親会社の企業だが、今ではそれとは逆に『あのビールも造っている航空会社だね』などとアベコベなことを言う人もいるくらいだ。

垢抜けたイメージとともに急激に路線を拡大していったが、2007年にインドにおける格安航空会社の先駆けであったエア・デカンを買収したことに負う部分も大きかった。旧エア・デカンは、キングフィッシャー・レッドとしてその後もインドの格安路線市場で、その他後発の格安航空会社や既存航空会社の格安料金と競い合い、同国の航空チケットの低価格化に果たした役割は相当なものである。

個人的には、料金が安いもののウェブサイトでインド国外で発行したクレジットカードでは予約できなかったエア・デカンがキングフィッシャーに買収されてからは問題なく使用できるようになったのがありがたかった。

ここ数年来の燃油代やパイロットの人件費の高騰により、どの格安路線も経営は決して楽ではないが、キングフィッシャー・エアライン自身も、華やかなイメージとは裏腹に様々な筋から経営難が伝えられていた。

国内路線の伸長とともに、国際線にも積極的な進出を行なっており、他社と一線を画したカジュアルながらもスタイリッシュなブランドイメージとスタイルが良くてセクシーな制服を着た美人揃いの客室乗務員たちで人気を集めている同社は、利幅が薄くブランドの印象維持が容易ではない格安路線の切り捨てに舵を切ることになった。

総体的には格安航空会社が従来型のキャリアに移行したように見えるが、実のところこれまでなかったちょうど両者の中間といった具合の新しいタイプのエアライン、つまりお役所的ではなく使い勝手の良い航空会社として今後も更に発展していくことと思う。

この10年ほどで、インドの空の交通機関のありかた、ネットワーク、料金は大きく変化している。もちろんインドに限らず、中国、アセアン、ガルフその他のアジアの多くの地域で同様だ。

だが便利になった、と感心ばかりしてもいられない気がする。人手不足で給与が高騰しているパイロットはともかく、その他の職種で航空業界に務める人たちの労働条件は、この間にどのように変化していったのかということも気になる。

新規参入した会社が多数あり、業界全体の事業規模が飛躍的に拡大した結果、雇用者数が急増したことは容易に想像できるのだが、旧来からの航空会社に勤務の大多数の人たちにとっては、年々条件が厳しくなる苦難の10年だったのかもしれない。

便利になるということは、往々にしてそのサービスを生業にしている人たちにとっては、当然の帰結として従前よりも重いノルマ等が課せられるわけで、同じ一続きの世の中で暮らしている以上、顧客たる私たちにとっても対岸の火事ではない。回り回って我が身にも降りかかってくることなのだ。

キングフィッシャー・エアラインスの『レッド』部門切り捨てにより、これまで同社の路線拡大に大きく貢献してきた、切り詰めたコストの中でいろいろ使い回しされながらも頑張ってきた人たちが、今後どのような処遇を受けるのかということにも思いが及ぶ。

現場で汗をかいて働く人たちはもちろんのこと、ホワイトカラーの間でも、エア・デカンの買収により、キングフィッシャー・レッドに移行した人たちには、厳しい処遇が待ち構えているのではないかと思うと、同じ生活者として非常に気の毒である。