再び中華朝市へ1

コールカーター訪問の際、毎回一度は中華朝市に出かけることにしている。ごくささやかなモーニング・マーケットではあるものの、コールカーターで長年続いてきた(インド独立に続いて中印紛争以降は人口を激減させてきたが・・・)中華コミュニティの一面を垣間見る機会であるとともに、インド人たちにとっては異国情緒を味わうスポットとしてテレビ等で紹介されたこともあるため、カメラを手にしたカップルや親子連れ等も少なからず見かける。

昨年秋に版が改まったロンリープラネットのインドのガイドブックのコールカーターのチャプターでも、『Old China Town』(旧中華街)として、このエリアのことを取り上げるようになったことから、同様に紹介されている郊外のテーングラー地区とともに、訪問する外国人客も今後増えていくのではないかと思う。旧中華街のSun Yat Sen St.つまり『孫文路』にある、知人の華人女性Cさんの中華食材屋に立ち寄った際、彼女自身のことも少し書かれているページを見せてみた。まったく知らなかったようでちょっと驚いていた。コミュニティ内外の様々な人たちが出入りするお店の主で、気さくで知己の幅が広く華人コミュニティに関する情報通であることに加えて、いつも店にいるのでコンタクトしやすいことから、従前からメディア等の取材を受けることが多かったようだ。

そのCさんと世間話している間にも、時折地元コールカーター在住のインド人たちの中で、ちょっとグルメな人たちがソースだの、乾麺だのといったアイテムを求めて店にやってくる。『煮豚をうまく作りたいと思いましてな・・・』と、調味料や香辛料を購入するとともに、レシピの教えを乞う初老の紳士の姿もあり、さすがはコスモポリタンなコールカーター、食生活も多様なインド人たちがいるものだと少々感心。

数少ない華人の売り子

この中華朝市、華人たちが大勢早起きして屋台でいろんな食べ物を売っているものと期待して出かけるとアテが外れることだろう。肉まんを蒸して売っていたり、油条を揚げて販売したりしているのは、たいていインド人たち。中にはわずかに華人もあるといった具合だからだ。お客の側についても、華人の姿がチラホラ見られる程度。彼らの多くは、中印紛争以降大量に国外、とりわけカナダへ移住してしまったため、人口が激減したことに加えて、コールカーターに残った人たちの多くは高齢化しているので、あまりこういう仕事をしなくなったということが背景にある。

そんなわけで、朝市の売り子たちの多くは、この地域で華人の屋台料理を覚えたインド人たちなのだが、それでも『華人直伝のやりかた』はしっかり身に付けているようだし、肉まんやシュウマイ等は、この地域で華人が製造したものを購入して蒸して販売しているため、味は本格的だ。

華人の親子連れの姿があった。

中華屋台料理の店と反対側には、野菜や魚類などを売る普通の露天商たちが店を広げている。大きなタライの中には生きたフナや鯉の類の魚たち。中には緋色の鯉の姿もある。元々錦鯉は、突然変異した緋鯉を改良していってできたものなので、普通の鯉の中にある一定の割合でこうした変種が出現するのだろう。

緋鯉がいた。

<続く>

コールカーターでGALAXY TAB購入

GALAXY TAB

以前から『あったら便利だな・・・』と思っていたものがある。SIMフリーのSAMSUNGのGALAXY TABである。AppleのiPad同様の大型のタイプではなく、画面サイズが7インチでSIMを挿入して通話も可能なモデルが欲しかった。

なぜかといえば理由はいくつかある。

まず、電子書籍ないしはスキャナで読み込んで電子化した書籍を読むためのリーダーとして、iPadを利用しているのだが、外出時に持ち歩くには9.7インチの画面サイズはちょっと邪魔だ。7インチというサイズは視覚的にも質量的にも、複数の書籍を常時持ち歩き、いつでもどこでも好きなところで読書するという目的にうまく合致する。旅行先に持ち出すガイドブックもこれに入れておくといいだろう。ただし、バッテリー切れには注意したい。

次に、携帯電話として利用できる点もいい。頻繁に電話をかける人の場合は、いちいちマイク付きのヘッドセットを装着しなくてはならないのが面倒かと思う。だが私の場合は発信・受信ともに多くないので問題ない。

また周囲に通話内容を聞かれても構わないのならば、ちょうど家の電話のハンズフリー状態での会話も可能だ。スピーカーから相手の声が流れ出て、こちらの声は本体左側に内蔵されているマイクから拾われることになる。自室内やホテルの中でならば、このほうが楽でいいかもしれない。iPadの場合は、Wi-Fi環境でSkypeは利用できるものの、マイク付きのヘッドセットをしなくてはならないことを不便に感じていた。もちろん3Gによるインターネット接続もできる。

日本のdocomoから販売されているSIMロックがかかっていることに加えて、本来仕様に入っているテザリング機能も利用不可となっているのだが、国際版のGALAXY TABは、持てる性能をフルに発揮できる仕様だ。さらには、Bluetoothキーボードも利用可能のため、日記等を書くためのワープロとしても使うことができる。ほぼ「パソコン」として活用できることになる。

私が購入しようとしていたGT-P1000(日本国内で販売のSC-01Cというモデルに相当)はすでに生産終了であり、後継機種との入れ替わりの時期である。そのため新しいモデルが出てくるのを待つかどうかということも少々考えたのだが、その分価格も少し安くなっていたことに加えて、スペックはGT-P1000で充分だと考えたので手に入れることにした。

そこで向かったのは、コールカーターのサクラート・プレース(Saklat Place)だ。チャンドニー・チョウクとマダン・ストリートの間に広がる電機とIT関係の店が集まるエリアで、パソコン、携帯電話からテレビや扇風機等々まで、いろいろなモノを扱う小さな店が雑然と軒を連ねている。いくつかの店を覗いてみたが、目当てのGALAXY TAB GT-P1000はすでに売り切ったというところが多い。SAMSUNGの新製品、GALAXY NOTEを勧められたりする。5インチの画面のスマートフォンで、これも魅力的なモデルであることは間違いないのだが、電子書籍を読みまくるのには適当なサイズではないため、私にとっては目移りする対象ではない。

マダン・ストリートとチッタランジャン・アヴェニューの交差点にあるIT関連専用のモール、E-Mallに行ってみた。規模は小ぶりではあるものの、インド国内外のメーカーのパソコンや携帯電話関連のショップが入っており、各店舗とも小ぎれいでいい感じ。

最上階にあるe-zoneという店は一番大きくて品揃えの幅も広く、ここでようやくGALAXY TAB GT-P1000の在庫がまだあった。販売価格は25,990Rs。包装箱に出荷時に刷り込まれている価格は32,920Rsだが、すでに型落ち商品なのでもう少し安くなってもいいような気がするのだが・・・。

店頭にいくつか並べられているデモ機の中に、Relianceの3G Tabもあった。見た目は実にそっくりで、スペックもGALAXY TABと同等、もちろんOSはどちらもアンドロイドを搭載。こちらも携帯電話としての通話機能が付いている。まさにGALAXY TABのコピー製品といえるだろう。

Reliance 3G Tab SAMSUNGのGALAXY TABと『瓜二つの他人』

大きな違いといえば販売価格。Relianceの3G Tabは、SAMSUNGのGALAXY TABの半額くらいなので少々心が動く。私が欲しているのは機能そのものなので、ブランドはどうでもいいのだが、3G Tabの実機を操作してみると、動きそのものは軽快であるものの、ボディの感触に剛性感が無く、繋ぎ目もペラペラしている印象。この分だと内部もお粗末な仕上げなのではないかと思えてしまう。やはり韓国製造の安心感もあり、SAMSUNGの製品にすることにした。

それまで使用していた携帯電話からインドのvodafoneのSIMを取り外し、購入するGALAXY TABに挿入してみる。通話・ネット接続ともに問題なく動作することを確認したうえで購入。

通信費について、こうしたスマートフォン端末から普通にネットにアクセスすると非常に割高な料金となることに気が付いた。ちょっとブラウズしただけで100Rs、200Rsと引かれていってしまう。GALAXY TABから直接のウェブ閲覧、あるいはテザリングともにやたらと不経済だ。ノートパソコンからネット接続するためのUSBスティックについては、各社からUSB機器代金込みで1か月(他に3か月、6か月等のプランも有り)で1,200Rs前後でつなぎ放題のプランが出ていることに較べると、馬鹿らしいほど高い。現時点では、少なくとも私が利用しているvodafoneからは、スマートフォンによる3Gデータ通信のつなぎ放題プランは出ていないが、スマートフォンから頻繁に3Gデータ通信を使うならば、それなりのパッケージを利用したほうがいい。

だがデータ通信に使う機器が複数ある場合、Mi-Fiを利用すると効率がいいだろう。スマートフォンくらいのサイズのインターネット接続用のルーターだ。Wi-Fi接続機能のあるデバイスならば、何でもネット接続できる。ハードウェアの価格がまだ高いが、今後普及するにつれて、より低価格の製品が出てくることだろう。

ところで、3Gデータ通信は、大都市ではそれなりに快適な速度が出るものの、地方とりわけ山間部に行くと具合があまりよくなかったり、極度に不安定であったりすることもある。これはインドに限ったことではなく、日本でも例えばソフトバンクの場合は大都市圏外でなかなか繋がりにくかったり、首都圏でも丘陵地になっているエリアでは利用できないスポットも少なからずあったりするのはいたしかたない。だが概ね広範囲で常時接続できる環境が簡単に手に入るのはありがたいことだ。

さて、話はGALAXY TABに戻る。コールカーター市内でWi-Fi環境下に持っていき、とりあえず入れておきたい無料アプリケーションをダウンロードしてインストールした。SAMSUNGのGALAXYの国際版は、購入した状態では日本語読み書きの環境がないため、こちらも無料の日本語IMEを入れたところで、Bluetoothのキーボードはまだ持っていないが、当面必要な環境はほぼ揃った。

だがひとつわからないことがある。iPadで書籍リーダーのi文庫を愛用しており、有料アプリケーションだが、こちらは是非とも入れておきたかったので購入しようとしたのだが、うまくいかなかった。『お住まいの国では、このアイテムをインストールできません。』とのエラー表示が出てしまう。端末のロケーションを日本に変更すれば購入できるかも?と試してみたが、どうもダメなのである。

i文庫はなぜか購入できないと表示された。他にもいくつか入手できないアプリケーションがあるのだが、これらは日本での販売モデルと違うからだろうか。たいていのアプリケーションは入手可能なようだが、他にもいくつかi文庫同様にダウンロードできないものが存在することに気が付いた。私自身、こうした分野に詳しくないのでよくわからないのだが、似たようなアプリケーションはいくつもあるわけだし、あまり細かいことは気にしないことにしよう。

付属のケースを装着してみた。

購入時にパッケージ内に同梱されていたケースを装着。一見、普通の手帳みたい(?)であまり目立たずいい感じだ。とりあえず、持参のノートパソコンの中に保存してあるLonely Planetガイドブックのコールカーターのチャプターを転送して表示してみた。

Lonely Planetのガイドブックを表示してみた。

同社のインドのガイドブックの判型よりもやや小さく、厚み四分の1程度の躯体に、ガイドブック、その他の書籍が収まり、ウェブ閲覧、メール送受信に加えて携帯電話機能、そしてワープロソフトその他パソコン的な機能も有していることから、やたらと重宝しそうな予感。盗難にはくれぐれも気を付けようと思う。

Mマウント専用機を手頃な価格で 『RICOH GXR + GXR MOUNT A12』 

ユニットを交換するという発想が面白い。まるで別のカメラになる。

本日取り上げてみるのは、リコーが2009年12月に発売したGXR。レンズ、イメージセンサー、画像処理エンジンを一体化したユニットを丸ごと差し替える『ユニット交換式』という風変わりなものだ。ユニットごとにセンサーのサイズがAPS-Cであったり、通常のコンパクトデジカメ並みに小さなものであったりする。一眼であれば、ボディを買い替えてもレンズは引き続き利用できる資産ということになるのだが、このユニットとは現行のGXR専用である。

なかなか良さそうだなと思いつつも、特に欲しいと思うまでには至らなかった。少なくとも今年8月に『GXR MOUNT A12』というユニットが発売されるまでは・・・。

GXRにGXR MOUNT A12を装着した状態

このユニットはMマウントの交換レンズに対応。Mマウントといえば、まず誰の頭にも浮かぶのはライカだが、言うまでもなくひとつの『世界標準』のマウントであるため、他にもフォクトレンダー、ツァイスといった名門どころのレンズも装着できる。またニコン、キャノンその他の日本メーカーもこのマウントのレンズを製造していた時期があった。

GXRGXR MOUNT A12と合わせて購入したりすると、こうしたレンズが次から次へと欲しくなって大変なのではないかと思うが、こうした古いレンズ資産がふんだんに活用できるというのは魅力的だ。たぶん、これまでGXRにあまり関心を持っていなかった人たちの中で、このGXR MOUNT A12が発売されてから、突然大マジメに購入を検討している人たちが大勢いるのではないかと思う。

刷新の速度が極端に早いデジタル製品なのに、古いアナログ時代のレンズがふんだんに活用できるユニットの開発とは、いいところに目を付けたものだと思う。

マイクロ・フォーサーズのカメラ用にMマウントを装着するためのマウント・アダプターが販売されているが、Mマウントのレンズをそのまま装着できるモデルといえば、これまでならばライカのM9 (700,000円前後)やエプソンのR-D1xG (200,000円前後)といった敷居が高く、価格的にも手が届かない超高級機であった。

だがGXR (25,000円前後)とGXR MOUNT A12 (59,000円前後)の組み合わせならば、ずいぶんリーズナブルに『Mマウント専用機』が手に入ることになるのが素晴らしい。発売から2年経過しようとしているGXRだが、Mマウント装着用のマウントが発売されたことにより、写真好きな人たちの間で俄然注目を集めることになった。今後もしばらく現行モデルでの販売が続くだろう。

GXRGXR MOUNT A12という組み合わせについては、ハイエンドなコンパクトデジカメといった括りが適当かどうかということもあるが、万人ウケするものではなく、むしろカメラ自体が使い手を選ぶような具合になってしまうのだが、高級コンパクト機のありかたについて、唯一無二の大変魅力的な提案である。

GXRが『Mマウント専用機』に変身!

親族旅行 御一行様18名

だいぶ前のことになるが7月にジャイサルメールを訪れたときのことだ。雨季ではあったものの西ラージャスターンは降雨がとても少ないのはいつものことで、それがゆえに砂漠が広がっているわけでもある。

そんな土地であるがゆえに、農耕その他に利用されることもなく手つかずの大地が広がっているという条件は、風力発電にはちょうどいい具合のようで、グジャラート州のカッチ地方同様に大きな風車がグルグル回っている。

持参した温度計は昼前には気温は43度を指していて、暑さが苦手の私も小学生の息子もヘトヘトになってしまっていた。多少は空調の効いているところで何か冷たいものでも、とオートで飛ばして、RTDCのホテルのレストランまで出かけた。

そこで食事をしていたのはムンバイーの北にあるワサイー在住の老夫婦。何でもクルマを借り切って旅行中とのことで、その日の夕方に砂丘を見に行くので一緒に来ないか?と誘ってくれた。

借りているクルマとは観光バスであった。一体何人で旅行しているどういうグループなのかと思えば、近隣に住んでいる兄弟や親戚だという9組の夫婦で総勢18名。毎年この時期(オフシーズンで比較的安く済むからということもあるらしい)にその顔ぶれでインド各地を旅行しているそうで、昨年はタミルナードゥを訪れたのだという。

老夫婦のご主人、Jさんは十数年前に55歳でタバコ会社を定年退職したというから、現在70歳くらいだろう。団体の中では最年長のようだが、他の男性メンバーの面々の多くはすでに隠居生活だという。彼らが宿泊しているRTDCのホテルのロビーで午後5時に待ち合わせということで、一度宿に戻って仮眠することにした。

夕方になっても、まだかなり気温は高い。ホテルの敷地には小型の観光バスが停車していて、Jさんが車内から出てきて手を振ってくれている。みんな夫婦連れだが、バスの中では前が女性グループ、後方が男性グループと分かれて座っていた。皆気さくで感じの良い人たちであった。

行先はジャイサルメール市街から西へ45kmくらいのところにあるサム砂丘。果てしなく続く荒地の中の道路をひた走るとチェックポストがあり、明らかに警官ではない民間人が乗り込んできて、バス最前列に座っている女性に『団体の代表の方はどなたですか?』と尋ねている。

何かと思えば、ラクダでの砂丘観光とダンスを見ながらのディナーといったパッケージの売り込みをしている。執拗なセールスに対して、何とかJさんたちは『砂丘を見るためだけに来たのだから・・・』と断ったものの、男はバイクにまたがって私たちのバスの前を走っている。他にも同様の男たちが沿道にいたようだが『これは私のお客』として確保したつもりなのだろう。

舗装はしっかりしているものの、このあたりからは道路の半分くらいが砂に埋まってしまっていたりする。『ここから先は一般人立ち入り禁止』となっている地点でバスは停止。そこからバイクの男の誘導で、彼の案内する駐車場に停めることになった。

このあたりで彼の役目は終わりのようで、後はそこを縄張りにしているラクダの御者、レストランの客引き、飲み物売りなどが、どこからともなく沸いて出てくる。

駐車場の脇にはファイヤープレイスと円形にしつらえた席を用意した場所があり、ここがダンスだのディナーだのといったサービスが提供される場所であるらしい。ここでも男たちが出てきて『食事は?』『ダンスは?』と勢いよく売り込みにかかっている。

Jさん一行が『これから砂丘に行くのだ』と断ると、合図とともに物陰からラクダが引くカートが数台現れた。このあたり『よく出来ているなぁ』と妙に感心する。それならば、とみんなでそれに分乗して砂丘のサンセット・ポイントなる場所に向かうことになった。

気温が下がった日没時にここを訪れる人たちは非常に多い。シーズンオフではあったものの、砂丘のそれぞれのリッジすべてに観光客たちの姿があり、そうした人たちを相手に歌や踊りの余興をやってみせる子供たち、ソフトドリンク類を売る男その他が沢山群がっている。砂漠がこんなに賑やかなところであるとは想像もしなかった。

360℃どこを見渡しても観光客たちの姿

砂はさらさらのやわらかいもので、日本の砂浜にあるのとおなじような感じだ。しばらく前に雨が降ったようで、砂丘の斜面の砂がある程度固まっていて斜面を登りやすくなっていた。そこでしばらく過ごしてからバスを停めてあるところに行き、皆でチャーイを飲む。周囲には同様の施設がいくつかある。やはり途中のチェックポストで観光バスを『拿捕』して自分たちの縄張りに囲い込んでしまうということが、この商売のツボであるらしい。

Jさん一行と記念撮影

日が沈んですっかり暗くなった帰路、車内では賑やかな会話が続き、誰かが声をかけると一斉にバジャンを歌い始めた。一行の中では一番若い感じ・・・といってもおそらく50代半ばと思われる男性は、沿道の酒屋でバスを停めさせて沢山の酒類を購入している。宿に戻ってから乾杯するのだろう。Jさんたちに『一緒に飲みませんか?』と誘われたが、こちらは子連れなので遠慮しておく。

よく、日本の高齢者は元気だというが、概ね退職年齢が早い分、インドの年配者たちも同様だ。経済成長に伴う可処分所得の増加により、余生を楽しむゆとりがある人たちも増えているはずで、大いに結構なことである。

Jさんたちは『今度は東方面に行きたいね!』と、すでに来年の団体旅行の計画を練り始めているそうだ。

あとはアルナーチャル・プラデーシュが門戸を開けば・・・ 2

観光業とは、ひとつの街、地域、州で完結するものではなく、広く周辺地域が相互に依存する関係にある。ひときわ魅力的な地域が新たに加わることにより、そこを訪れた人々が次なる目的地として隣接州に流れていくことになり、経済的収入、関連産業の活発化、雇用の促進といった果実を各地域で分け合うことになる。

ベンガル北部からアッサム西部に至る、バーングラーデーシュの北側を迂回する細い回廊部で、まさに『首の皮一枚』でインド本土と繋がる北東諸州だが、この地理条件と現在のインドヴィザに係る『2か月ルール』は、この土地の観光業振興という面に限っては、決して悪くない効果をもたらすかもしれない。

つまりインドの他地域から一度北東州に入ってきたならば、空路を除けば北東諸州の外に出るのはなかなか手間と時間がかかる。中国、ミャンマーと長い国境線を接していながらも、外国人たちはそれらの国に陸路で出ることはできない。複数の地点から容易に出入国が可能なバーングラーデーシュにしてみたところで、一度出国すると2か月はインドに戻ることができない(事前に所定の手続きを踏んでいれば可能)という制限のため、『せっかく近くまで来たから』と、思いつきでフラッと浮気することもできない。

私自身、この地域についてあまり詳しくは知らないのだが、トレッキング等はもちろんのこと、雨季には多雨の地域であるためシーズンにより条件は大きく異なるが、風光明媚で気候が良いところはいくつもあるように思われる。個人的には、乾季にメーガーラヤ州都のシローンから日帰りしたことがあるチェラプンジー(世界で最も多雨とされる土地)は、切り立った断崖絶壁の台地から成り、町をぐるりと囲む風景が面白いことと、この地域に暮らすカーシー族というモンゴロイド系の人々の暮らしぶりが興味深く、何日か滞在したいと思った。

観光の大きな目玉はあまり無いとはいえ、インドの他の地域と大きく異なるため、そこにいること自体が楽しいといえる。よく『多様性の国』と言われるインドだが、まさに北東諸州を訪問することによって、それを実感できることだろう。もちろん北東諸州といっても、それぞれの州に様々な異なる民族が暮らしているし、アッサムやトリプラーのように、州内にベンガル系の人口が多く、パッと見た感じではベンガルにいるのかと思うような地域も少なくないなど、この地域自体が実に多様なものを内包している。

この地域に接するブータンも近年は計画的に観光客の数を増加させている。今のところは従前どおりに西欧等の富裕層をターゲットにしてのツアー客呼び込みだが、先代の国王自らが着手した民主化が進展していけば、観光業の進展やそのありかたについて、いつか必ずや根本的な議論とこれによる包括的な見直しが入ると考えるのが自然だろう。

アルナーチャル・プラデーシュに加えて、ブータンが『誰でも普通に入って自由に観光できる国』となった暁には、この地域の注目度は今と比較にならないほど高いものとなるはずだ。とりわけ後者、つまりブータンについては、それがいつになるのかわからないが。

<完>