史上最悪の産業事故から四半世紀

昔からボーパールで生活している、ある一定の年齢層以上の人々にとって、12月3日という日付には特別な意味があるはずだ。
今年もその日がやってきた。1984年の12月3日の零時過ぎに、マディヤ・プラデーシュ州ボーパール市のユニオン・カーバイド社の工場で起きた、史上最悪といわれる産業事故である。
ONE NIGHT IN BHOPAL (BBC NEWS South Asia)
その晩、同工場から有毒ガスが市内に流出した。イソシアン酸メチルと呼ばれる肺の組織を破壊する猛毒である。事故が起きた夜半のうちに50万人近くの人々が多かれ少なかれそのガスに晒され、2千人以上が命を落としたとされるとともに、その後これが原因となって死亡した人々の数は2万5千人に及ぶという。
また命を落とすには至らなかったものの、深刻な健康被害を受けた人々の数は、20万人とも30万人とも言われているとともに、今なお引き摺る後遺症に悩んでいたり、精神を病んでいたりする人々もある。彼らの中でガンを発症する率が極めて高いことも指摘されているとともに、出生する赤ん坊たちの中に先天的な奇形が多く見られるという。
1969年開業時には地元の工業化の進展と大きな雇用機会をもたらすものとして、またここで生産される有用な殺虫剤の普及は社会に貢献するものとされていたことなどもあり、歓迎されていた工場である。
事故の原因については、今なおいろいろ議論のあるところだが、ユニオン・カーバイド社が主張していた『アメリカ本国と同じ安全基準』が実際には適用されておらず、ずさんな管理がなされていたことが背景にあるようだ。また従前より、工場内部からも事故の可能性を危惧する声が一部から上がっていたらしい。
1989年に、事故の遺族たちとの示談が成立し、彼らに対する補償問題は解決したものとされているが、工場地の重度に汚染されている状態、そこから敷地外への有害物質の漏出が現在も続いており、今なお付近の人々に対する健康被害が継続しているとされるが、これについての責任の所在が確定していないため、何の対応策も取られていない。
同工場は事件後閉鎖されているが、ボーパールの駅から北方面2キロ弱の地点にある。Google Earthなどで確認していただけるとよくわかるが、この工場自体が市街地内にあり、しかも人口稠密な地域にごく近いことも大きな被害を呼ぶことになった。

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線路西側にかつての工場施設が錆び付き、荒れ果てた姿で亡霊のように姿を現す。かつて大事故を起こした建物が、当時そのまま放置されていることが示すように、事件は今なお続いている。
この事故は、発生直後からマスコミやノンフィクションなどでいろいろ取り上げられてきたが、比較的近年になってからも映画や小説の題材となっている。
1999年には、この事故を題材にしたヒンディー映画『Bhopal Express』がリリースされているので、観たことがある人も少なくないだろう。
The City of JoyFreedom at Midnightなど、インドを題材にした作品も複数手がけてきたドミニク・ラピエールがハビエル・モローとともに著した作品『Five Past Midnight in Bhopal』を世に送り出したのは2002年。
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日本で同書は『ボーパール午前零時五分』というタイトルで発売された。
事故に関して、以下のようなビデオならびに写真のサイトもある。
Twenty Years Without Justice : Bhopal Chemical Disaster (STRATEGIC VIDEO)
Bhopal Gas Tragedy (Photos by Raghu Rai)
汚染が継続していることを警告する住民側とこれを否定する行政の姿勢を伝える報道もある。
Bhopal site ‘not leaking toxins’ (BBC NEWS South Asia)
事故発生からすでに四半世紀が過ぎたことになるが、今なお健康被害等が続いていることについて目をつぶるべきではないし、彼らの救済や汚染状態の調査と適切な対策がないがしろにされてしまっているこの事件を風化させてしまってはならない。
だが、事故の規模があまりに大きなものであったがゆえに『誰がその費用を負担するのか?』という問いに対して、『誰も負担できないし、負担しない』状態が続く限り、被害者たちの苦悩は続くことだろう。たまたまそこに居合わせたがゆえに事故に巻き込まれた罪無き人々に対するあまりに酷い仕打ちである。

過去のイメージ

最近、Google Earthで昔の衛星画像を閲覧する機能が付いていることに気がついた。
メニューの『表示』から『過去のイメージ』をクリックすると、画面左上に画像の撮影時期を指定するツールバーが現れる。これを操作することにより、表示されている土地の過去の画像を見ることができるようになる。
昔の画像、といったところで何十年も前のものが出てくるわけではない。せいぜい今世紀の始まりくらいか1990年代後半くらいまでしか遡ることができない。それでも、ここ10年くらいで急激に発展した街、新たに建設が始まった市街地等の進化や拡大の様子を把握することができるだろう。
今世紀の始まりといえば、インドにおける歴史的な大地震のひとつに数えられる2001年1月26日発生のグジャラート大地震が思い出される。グジャラート州西部カッチ地方のブジを震源地とする強い地震により、死者20,000人、負傷者167,000人を出した。
被害は同州最大の都市アーメダーバードや州東部にも及んだとはいえ、震源地かつ主たる被災地であるカッチ地方は人口密度の希薄な地域でありながらもこうした数字が記録されたことは特筆に価する。
復興が進んでいることは耳にするものの『そういえば、ブジは今どうなっているのか』とGoogle Earthで旧市街の様子を表示してみると、以下のような画像が出てきた。
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震災前は、もっと密度の濃い街区だったはずだが、かなり空白が目に付くことから、おそらく以前とはかなり違った風景になっていることがうかがえる。しかしGoogle Earthの過去画像で遡ることができるもっとも古い同地区の様子は以下のとおり。
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2002年9月13日撮影ということになっているため、震災から1年9カ月後の様子だが、現在の様子よりもはるかに希薄な風景となっている。これらふたつの画像を拡大してみると次のような具合となる。上が現在、下が震災まもない時期のブジ旧市街の一角だ。
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おそらく地域の建物の大部分が建て替り、震災前とはまったく違った光景が広がっているであろうことは容易に想像がつく。
市街地の建物の密度もさることながら、乾季でも満々たる水を湛えているはずのHamisar Tankだが、震災の後はどうしたわけか以下のように干上がっていることにも驚いた。
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それが最近の画像では、ちゃんと水が再び戻ってきている。
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大震災の後に池や湖から水が引いてしまうということがあるのかどうかわからないが、上の画像は何か人為的に水を他のところに引いていたのか、それとも地震に伴う自然現象であったのか?
ブジという街はもちろんのこと、周囲にも面白いエリアが数多い。染物で有名なアンジャール、ダウの造船で知られるマンドビー、織物や刺繍といったテキスタイル関係を生業とする村々、ハラッパー文明の遺跡のドーラーヴィーラー等々、豊かな文化と歴史に恵まれている。
カッチ地方には部族民が多く、かつて個性的な民族衣装でカッチの中心地ブジの町にも出入りしていたが、やはり商業化の進展とともに、より経済的で耐久性のある工業製品が普及するようになり、こうした人々が身に付ける衣類にも変化が顕著に現れてきていた。
男性は洋服、女性はどこのマーケットでも普遍的に手に入るような工場製品のサーリーやパンジャービーといった具合である。従前は特色のある衣装をまとっていた人々も見た目は街に暮らす人たちとあまり区別がつかなくなってきていた。
彼らの伝統的な衣装を仕立てていた職人たちは、買い手が減って生計が成り立たなくなってくる。そうした職業を辞める人が出てくれば、それらの衣装も手に入りにくくなり、敢えて買い求めようとすれば、かつてよりも高い対価を支払わなくてはならなくなってくる。
そんなサイクルが繰り返されて、次第に日常の装いから縁遠いものになってきて、やがては『博物館で保存される民族の伝統』という具合になってくるのだろう。
これはカッチ地方に限ったことではなく、インド全土で人々の装いのありかたは工業化の進展とともに、地方色が薄れてより『グローバルなインド』的な形に収斂されてきていることは言うまでもないし、私たちの日本も含めておよそ世界中で、程度の差異はあれども似たようなことが進行している。
話は逸れたが、本題に戻ろう。
もうひとつ、今世紀に入ってからの大災害といえば、2004年12月26日のスマトラ沖地震とそれに起因する津波がインド洋沿岸地域を襲ったことだろう。
震源地であるインドネシアのスマトラ島はもちろんのこと、タイ、スリランカ、インド等でも記録的な被害を蒙ることとなった。特にタミルナードゥのナーガパットナムでの被害が甚大であったが、南インド東側沿岸を中心に広く死者や行方不明者が出た。
当日の夕方、ニュース画像でチェンナイのマリーナー・ビーチに押し寄せる津波、多数の自動車がまるで紙でできた小さなオモチャであるかのように、波間に揉まれている様子が映し出されていて仰天した。
もっとも震源の近く、津波の規模も最大であったインドネシアのスマトラ島北部のバンダ・アチェの現在の様子は以下のとおりである。2005年1月28日に撮影されたものだそうだ。
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続いて津波がやってくる前の画像はこちらだ。2004年6月23日、つまり津波の半年ほど前の画像である。
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画像が小さくて、違いがよくわからないかと思われるので、これらの拡大画像も付けておく。荒廃した土地が広がっているように見えるが、元々ここには大きな運動施設があり、その周囲は住宅地であった。痛ましい限りである。
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Googleのサービスについては、画期的な利便性・有益性とともに、Google Earthにおいて国防施設等が丸見えになっていたり、ストリート・ヴュー画像が泥棒の下見に使われたりといった、国家ならびに個人のセキュリティに関わる事案が生じていること、書籍検索サービスにおける著作権の問題等々賛否両論ある。
しかしながら書籍検索で、すでに手に入れることのできない貴重な資料や図書を自宅にいながらにして探し出すことも可能であることに加えて、Google Earthの『過去のイメージ』は、今後画像データが毎年蓄積されていくことにより、歴史的な資料としての価値が出てくることが期待できることと私は思う。
これが一部の人々に独占されるのではなく、インターネットへのアクセスの手段がある限り、誰もがそれを共有できることにも大きな意義があることは言うまでもない。

ラージダーニー急行 マオイストが占拠

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今月21日にマトゥラーで起きた列車同士の衝突事故、同じく23日にはムンバイー郊外のターネーで、走行中の列車に送水管が落下したことによる事故と、鉄道関係の惨事がニュース映像となって流れたばかりである。
今日は、夕方テレビのニュースを眺めていると、『Breaking News』のテロップとともに、今度はマオイストと見られる一団により、ブバーネシュワル発デリー行きのラージダーニー急行が長時間停められているという速報が流れてきた。
場所は西ベンガル州のミドナプル地区。ジャールカンド州境に近いところである。複数の男たち、一説には100名ほどの群集が、赤い旗を手にして列車を停止させ、乗客の人々を人質にしているとの報せに仰天した。
その時点では、彼らが本当にマオイストであるかどうかの確認は取れていないようで、この地域のマオイストのリーダーは関与を否定しているという説も流れていた。それでも犯行グループは、現在収監されているマオイスト指導者、チャトラダール・マハトーの釈放を要求しているとのことで、やはりマオイストのある派閥に属する者たちによる実力行使であると見られるとのことだ。
これを書いている今時点で、事件発生から5時間経過した。すでに車両は警察当局のコントロール下に置かれている。犯人グループたちにより、携帯電話を取り上げられた者は複数あったようだが、幸いにして負傷者等は発生していない模様。テレビカメラに映し出されたラージダーニー急行の車体には、前述のチャトラダール・マハトーの解放を要求するメッセージが赤い文字で大書きされている。
Maoists stop Bhubaneswar Rajdhani Exp, driver missing (ZEE NEWS)
Rajdhani blockade over, ‘pro-Naxal’ group takes claim (India Today)
マオイスト、あるいはインドの武闘派極左勢力発祥の地である西ベンガル北部のナクサルバリにちなんで、ナクサルあるいはナクサライトと呼ばれる赤い地下組織は、西ベンガル以外でも、チャッティースガル、オリッサ、ジャールカンド、ビハール、アーンドラ・プラデーシュ、マハーラーシュトラなどで盛んに活動しており、事実上の『解放区』となっている地域さえある。
部族や寒村の貧困層といった、開発や近年の経済成長の恩恵とは縁遠い人々を主な基盤としており、そうした地域のアクセスの悪さや行政組織の不備等が、彼らの活動を利している部分もある。
そうした発展から取り残された地域の警察組織の脆弱さ、個々の警察官たちが治安要員としての資質や経験に乏しく、実戦の中で切磋琢磨してきたマオイストの戦闘員たちとまともに対峙することができないという行政側の当事者能力の欠如も指摘されているところだ。
近年、とみにマオイストたちの活動の拡大が顕著であることから、国内の治安に対する大きな脅威であるとして、中央政府が対決姿勢を鮮明にしているところだ。しかし中央の政治家たちがいくら声を荒げてみたところで、都市部を離れて人口が希薄、ひいては警備もほとんど存在しない公道や鉄路の上で散発する事件に対して、当局はあまりに無力であるように見える。
マオイスト、ナクサルと一口でいっても、その中には様々な志向の集団が内在していることだろうが、ネパールで内戦を続けた末に、合法的な政党と化し、一度は政権を担うまで至り、今も同国政治の行方を担う一大勢力である『マオイスト』が、彼ら自身の頭の片隅にはあるだろう。
果たして中央ならびに各州の政府が、地域社会と力を合わせてこうした暴力組織を駆逐する方向に進むことができるのか、あるいは今後ますます犠牲者を出すとともに自らの勢力を拡大していくのか、気がかりなところである。

ナイジェリアのイメージ

90年代初めあたりだっただろうか、インドに滞在するナイジェリア人の姿がやけに多いことに気が付いたことがある。しかも留学生ではなく、仕事等での居住者のようでもなく、『観光客』の立場で。
外国をフラフラと物見遊山に出かけるナイジェリア人がそう多いとは思えないし、彼らは大都市間のみを行き来していたり、滞在先の都市でも市内見物に出かける様子もない。特に人のことを詮索する必要はないのだが『彼らはいったい何をしているのだろう?』と思ったりした。
デリーで、所用等あってしばらく滞在していた宿の宿泊客の大半は外国人たち。そこにナイジェリア人たちが5、6人のグループで滞在していた。フレンドリーな人たちが多く、食事どきには中庭では鶏肉のシチューや主食のウガリなど、彼らの郷土料理をにぎやかに作っていたのだが、そこを通ると声がかかってはお相判にあずかっていた。
近隣の宿にもこうした人たちが何組も宿泊しており、多くは顔見知りであるようで、相互に出入りしているように見受けられた。
数日間、そこを留守にして他の町に出かけてから戻ってくると、宿の様子がすっかり変わっていた。ナイジェリア人たちが一人もいなくなっていたのだ。近隣に滞在していた者も姿を見かけなくなっていた。私の留守中に滞在していた人たちによれば、ある『事件』があったのだという。
『朝7時過ぎくらいだったかな?警察官たちが何人も雪崩れ込んできた。ナイジェリア人たちが滞在する複数の部屋にそのまま進んでいった。ドアをノックしてナイジェリア人が出てきたところに彼らが突入して全員取り押さえた。テレビクルーも後にくっついて行ってたぞ』
『部屋の中から幾つも金属パイプが出てきて、それを警察官がテレビカメラの前で切断してみせると、白い粉が大量に出てきた』
彼らは麻薬取り引きに関わる一団であったらしく、長く内偵を続けてきた警察がようやく証拠等を充分に押さえたうえで一網打尽にしたようであった。
威圧的な印象を受けるほど長身で筋肉質の立派な体格の人たちが多いものの、外見とは裏腹に陽気で友好的な人たちだな、と思っていたが、まさかそんな犯罪集団であるとは想像もしなかっただけに心底驚いた。当日、その宿に泊まっていた人たちは、多かれ少なかれ警察から質問をいくつか受けたのだという。
豊かな石油資源、1億5千万人を越える世界第8位の人口は、地域最大級の市場でもある。アフリカ大陸で突出した大国のひとつであり、この地域の中で特に高い教育水準を誇りながらも、政情不安や政府の腐敗などといった背景もあり、高い失業率に悩まされ続けている。
その結果が高い犯罪発生率ということになるのだろう。ナイジェリア発で、世界各地で知られている。『ナイジェリアの手紙』に代表される大掛かりな国際的な詐欺事件も頻発している。
石油公社幹部だの、暗殺された政治家や政府高官の家族だの、前政権時代の権力者で今は第三国に亡命中だのと名乗る差出人からメッセージが届き、膨大な裏金を自由に動かせるようにするために、当局がマークしていないあなたの銀行口座を貸して欲しい。こちらもリスクを負うのだから、あなたから保証料をいただいたうえで、一度入金させてもらい、これを私自身の安全な口座に移し変えることにしたい。これがきっちりうまくいった暁には、成功報酬をいくらお支払いする・・・などという形で、マネーロンダリングを持ちかける詐欺話が特によく知られているところだ。
英語が広く普及していること、コンピュータ関係の教育が盛んで、アフリカのIT大国という側面もあることから『作文』の面からも、また銀行口座への不正アクセスといった『技術面』からも、豊富な人材(?)が揃っているとされる。
近ごろのインドのメディアでも、ナイジェリア人たちの関わる事件等はよく取り上げられている。
Madhya Pradesh police bust online fraud racket (The Times of India)
Nigerian, 3 others held for Net fraud (The Times of India)
Nigerian held for Kerala Net fraud (Gulf Times)
Nigerian fraud: ‘money mules’ held (The Hindu)
Nigerian arrested with one kg heroin in Delhi (India Today)
こうした記事ばかり眺めてしまうと『悪い奴が大挙してやって来ているなあ!』と感じてしまうが、インドでマジメに学んでいる人、ちゃんとした仕事をしている人は大いに迷惑していることだろう。
豊富な原油埋蔵量を背景にアフリカ有数の経済規模を持つ大国、アフリカ大陸最大の人口を抱えているものの、教育の水準は域内でも高く、政治的に安定していれば、もっと順調に発展していて然るべきであり、南アジアにおけるインド同様、経済新興国の成長の核として、また人材の宝庫としても大きな存在感を示しているべき存在である。
そんなナイジェリアだが、日本においては同国の政情不安、インドにおいては犯罪にまつわるニュースばかりであるように見受けられるのは残念である。

チープなパフォーマンス

しばらく前に、インドのメディアで大臣や高級官僚等による海外を出張の頻度や旅費関係の支出等についてまとめた記事をいくつか目にした記憶がある。
『小さな政府』を志向し、国や自治体の支出を削減しよう、民間でできることはなるべく民間で行なうなどといった風潮は、国や地域を問わず、世界共通の風潮となっている。
個人的には、そういう視点も必要かとは思うものの、人々の働きかたの多様化を尊重するというおためごかしのために、働く人々の立場、つまり正社員であったり、期限付きの非常勤であったり、はてまた外部からの派遣であったりなどと、雇用関係等が様々な人たちが同じ職場で働く、あるいは同じ仕事をするのに賃金か大きく違ってくるといったことが当たり前になっていることについては決して肯定的に受け止めることはできない。
また、働く人々の立場が寸断された形になっているがゆえに、『労働者』として力を合わせて経営側と渡り合うことが難しくなっていること、さらには世界的な不況という背景も加わり、一般的に今の労使関係が大幅に雇用者側に有利になってしまっていることは大きな問題だと思う。
冒頭に書いたとおり、インドでも公金の使い方について、いろいろな方面で議論がなされているようだ。政治家や高級官僚が移動する際の旅費や公用車云々についても、様々な話がある。
コングレス首脳は、そうした動きを逆手に取って、自らの『クリーンさ』をアピールしようと図っているように見える。
一昨日、コングレス総裁のソーニアー・ガーンディーは、デリーから飛行機のエコノミークラスでムンバイー入りしたと伝えられた。
Sonia Gandhi flies economy class (ZEENEWS.COM)
息子のラーフルは、昨日シャターブディー急行でデリーからルディヤナーに向かったとのことだ。
Rahul travels by Shatabdi (ZEENEWS.COM)
確かに本人分の運賃は安く上がるのかもしれないが、こんな大物たちが公用でミドルクラスの人々と同じ乗り物を利用するなどということは、警備にかかる手間ヒマに労力、周囲の混乱その他の影響等を含めた『社会的コスト』を考えると、あまり現実的ではないように思う。
今の時代、無辜の市民が非情なテロリストの仕掛けたテロの犠牲になるということは珍しいことではなくなっている。有力な政治家が、エコノミーな交通機関を利用することにより、かえって市民が多大な不利益を蒙るようでは本末転倒だ。
昨日のZEE NEWSでは、ラーフルが乗車したシャターブディー急行の車内の映像も流れていたが、車両内の乗客全員がコングレスの動員による『仕込み』なのではないかと疑いたくなった。あるいはインド国鉄が、身元が絶対に確かな人々だけをその車両に配置したのではないか?とも。
民主主義の制度の下で、各選挙区から選ばれた代議士たちには、人々の代表としての責任と義務があるわけで、それをまっとうするために様々な便宜が図られているわけで、『支配層の特権』ではなく、本来ならばちゃんと合理性のあるものであるはずなのだ。問題は、それが理念に適った用い方をされているかどうかということ。
こうした現象は、政治不信の裏返しということもできるが、『無駄撲滅』といわんばかりに、必要なはずであるからこそ講じられている便宜を放棄して、関係各署その他に無理な負担を強いての『清廉さのアピール』は、チープなパフォーマンスにしか見えない。
同じような類のことは日本でもしばしば行なわれているので、インドのことばかり非難するつもりはない。ただ思うのは、どうも政治家のアピールというものは信用できないなぁ・・・といったところだろうか。有権者としては、ひたすら『選球眼』を磨いていくしかない。