ヒマラヤのミステリー 中国の偵察装置かUFOか?

India  Todayの記事によると、このところJ&K州のラダック地域とアルナーチャル・プラデーシュ州で、UFOが盛んに出現しているとのこと。

UFO sightings in Ladakh spook soldiers (India Today)

ラダック地域では、パンゴン湖周辺で、今年8月1日から10月15日までの間に100件以上の「不審光輝物体」を確認したインド・チベット国境警備隊(ITBP)から、同警備隊のデリーの本部と首相官邸に伝えられているとのことで、出元の怪しいものではないようだ。

これがインド中部のデカン高原あたりであれば、「宇宙からの飛来物か?」といった具合になるのかもしれないが、中印紛争、中国からの援助を受けるパーキスターンとの対立等々もあり、対中不信感が根強いインドにあって、とりわけ係争地域を抱えるラダック、中国が自国領であると主張しているアルナーチャル・プラデーシュに不審な飛行物が出没するとなると、当然「中国の偵察装置か?」という反応となる。

上記リンク先記事にあるとおり、インド軍は中国の無人偵察機による侵犯を、今年の1月から8月までの間で、ラダック地域では62件、アルナーチャル・プラデーシュでは37件確認している。

同記事中には、2004年にインド宇宙研究機関(ISRO)のクルカルニ博士率いる地理調査団が、J&K州ラダック地域の南側のヒマーチャル・プラデーシュ州のラーホール・スピティ地域で、ロボットのような未確認物体を撮影したという記述もある。

私たち日本人の感覚だと中国にそんな高い技術があるのか?ということになるが、インドから見た中国は経済力も軍事力も格上の相手で、これまでも痛い経験をしていることもあって、その潜在力をどうしても過大評価するきらいがある。

対中不信の原因は中国自身のインドに対する行ないによる歴史的な経緯による部分が多いことはもちろんではあるものの、インド側によるこうした反応、とりわけ大手メディアによるおおげさな報道が、結果的に「反中プロパガンダ」として機能することになる。

中国とは正反対に、思想や報道の自由が先進国並み確立にされており、自他ともに認める「世界最大の民主主義国」インドにあっても、イギリスからの分離独立以来の不倶戴天の敵パーキスターンとその友好国の中国に対する意識はいつも猜疑心に満ちている。

その猜疑心を世代を超えて継いでいく片棒を担っているのはマスメディアという側面は否定できない。「知る自由」「報道の自由」があっても、これが報道機関によって商業的に利用されることから、国民が本当に中立公正な情報を得ていることが保障されるとは限らない。

上記記事中の不審光輝物体やUFOについては、中国との国境地域であることから、こうした懸念が生じるのはやむを得ないものの、インドにおいてとかく中国関連の報道は疑いに満ちたニュアンスで伝えられるものが多く、結果的に長い国境を接する隣国である中国への理解と融和を妨げているように思われてならない。

Big B 70歳の誕生日

アミターブ・バッチャン

本日10月11日は、Big Bことアミターブ・バッチャンの70歳の誕生日。

Big stars at Big B’s birthday bash (NDTV)

70 के हुए बिग बी, दी शानदार पार्टी (NDTV)

誕生パーティーには、今をときめくボリウッドのスターその他の映画関係者、政治家、財界人など、様々な顔ぶれが集まる様子が映像で流れていた。

こちらは70歳の誕生日を迎えたBig Bのインタビュー映像。

I worked for Rs. 50: Big B, now 70, on his career (NDTV)

永遠のヒーロー、Big B自身も近年はずいぶん老けたなぁとは思うが、それでも彼が放つオーラは衰えることがない。さすがは稀代のスーパースター、アミターブ・バッチャンだ。

マラーラー・ユースフザイー

非常に残念なニュースだ。マーラーラーが撃たれた。この件については少々説明する必要があるだろう。

パーキスターンのスワート地方のミンゴーラー。かつて観光地として大いに栄えた地域だが、今世紀に入ってからは、この地域で勢力を伸長したターリバーン勢力と政府側との衝突により訪問者が激減した。さらに2009年にターリバーン支配下となり、その後政府軍が奪還するといった具合に内戦状態が激化することとなった。

ミンゴーラー出身、リベラルな家庭に育った少女マーラーラー・ユースフザイーはこの地の出身。2009年に内戦状態のスワート地方を離れてパーキスターン国内を転々とする中、故郷スワートでの就学機会を求める利発な少女の姿は内外のメディアの目に留まり、しばしばニュース等で取り上げられてきた。

ターリバーンが少女たちに対する学校教育を禁止したり、女子学校を破壊したりする中、少女たちの教育機会を求めての積極的な発言や行動は世間の耳目を集め、オランダを拠点とするKids Rights FoundationのInternational Children’s Peace Prize候補のノミネートされたことがある。惜しくも受賞は逃したものの、パーキスターン政府からNational Peace Awardが贈られた。

Peace Award to Malala yousafzai from Prime Minister Pakistan Sherin Zada Express News Swat (Express News)※ウルドゥー語

Malala Yousafzai awarded Pakistan’s first Peace Award (Ary News)※ウルドゥー語

あまり上手ではない英語でのインタビューと異なり、上記リンク先のウルドゥー語によるものでは、ずいぶんしっかりした内容で話していることに感心する。受賞は2011年、当時のマラーラーは13歳だ。

彼女は仮名でBBCウェブサイトに日記をブログとして公開して注目を集め、ニューヨーク・タイムズのサイトでもClass Dismissedと題した動画と関連記事が紹介されるなど、国際的にも知名度の高い少女人権活動家でもある。

Class Dismissed (New York Times)

現在14歳、将来は医者になりたという夢を胸に抱いて活動を続けていたマーラーラーだが、昨日ミンゴーラーにて他の女子生徒たちと乗っていた通学用のヴァンの中で撃たれた。その後、ターリバーンは犯行声明を出している。

マーラーラーは頭部と首に負傷しているとのことで、ペーシャーワルに空輸されて救命治療を受けている。現在までのところ、複数のメディアにより「手術は成功」「脳は弾丸による損傷を逃れている」といった情報が流れているが、非常に危険な状態にあるということは変わらない。彼女の回復を切に祈る。

Child rights activist shot in head (Business Recorder)

ネパールやインドで跋扈するマオイスト活動家たちの大半が、共産主義の何たるかをほとんど知らず、銃器による社会秩序への抵抗と下剋上の快感に酔っているように、ターリバーンの連中もまたイスラームの説く中身への理解もなく、やはり武器の力を背景にした支配と強制により、彼ら自身の乏しい知識による独自の解釈による社会規範を絶対的な正義と取り違えている。

従前からターリバーンたちから脅迫を受けてきたマラーラーとその家族だが、ついにそれが現実のものとなってしまった。この卑劣な犯行を、私たちは決して許してはならない。

もうひとりの女盗賊、政界進出へ

彼女の名前はレーヌー・ヤーダヴ。U.P.州のアウライヤー地区のジャマリプル村出身。24歳の彼女は、7年前の2005年2月に警察により、彼女が関わったとされる15件の殺人、誘拐、強盗のかどで逮捕された女盗賊。U.P.州西部、M.P.州北部、ラージャスターン州東部にまたがるチャンバル渓谷で暗躍していた。

もっとも彼女の盗賊としてのキャリアは決して長いものではない。2003年11月に、チャンダン・ヤーダヴ率いる盗賊団に通学中に誘拐され、10万ルピーの身代金を要求された父親が、それを払うことができなかったため、そのまま彼らの仲間入りすることになったという珍しい背景を持つ。盗賊として活動していた期間は実質1年強といったところだ。

そもそも警察に身柄を拘束された時点で16、17歳であったこと、彼女が盗賊団入りすることになったのも彼女自身の意思によるものでなかったため、今年5月末に釈放されてからは、更生の機会が与えられることは決して悪いことではないかもしれない。彼女には8歳になる娘もいる。

彼女が大きくクローズアップされるようになったのは、政界入りが揶揄されるようになったためだ。サマージワーディー党(社会党・・・といっても清新なイメージからは程遠い)から国政に進出した元女盗賊といえば、映画「Bandit Queen」のモデルとなったプーラン・デーヴィーがよく知られている。1996年、1999年の総選挙で同党から出馬して国会議員となった後、2001年に彼女が盗賊時代に実行した大量殺人の怨恨により暗殺されている。プーランに続いて、スィーマー・パリハルという女性の元盗賊もこの政党から国政入りを目論んでいた。

そこにきて、今回はレーヌー・ヤーダヴも「元女盗賊」という看板のもとに、被抑圧階級の救済、貧困層の女性の地位向上といったお題目とともに、2014年に予定されている下院選挙による国政進出が予想されている。

先の州議会選挙で大勝した集票力のあるサマージワーディー党からの出馬で、選挙前から知名度も高いこともあり、もし本当に選挙に出ることになれば当選する可能性が高い。決して国政を左右するような立場になる人物ではないが、インド民主主義の大衆主義的な側面を象徴する事例となることだろう。

平凡社新書 インド財閥のすべて

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書店店頭で見かけたこの書籍、新書版の一冊で「インド財閥のすべて」とは、なんと大げさな!と、少々憤慨しつつ手に取ってみた。

ところがどうして、ページを開いて読み進んでいくにつれて、インド経済史に通じた人物が、綿密なリサーチと膨大なデータを背景から丁寧に抽出されたエッセンスであることがわかる。

著者が経営する株式会社ネクストマーケット・リサーチのウェブサイトにアクセスしてみると、インド関係その他で興味深い経済関係の記事がリンクされている。

19世紀に阿片貿易によって大きな富と力を蓄えたインド商人は少なくなかったが、ターターやビルラーといった財閥もこの例外ではない。インドから上海や香港といった中国大陸のビジネスの拠点を経て多国籍化していったユダヤ系資本もまた同様だ。

個人が興したビジネスが財閥として発展していく中で、事業が時流に乗って拡大していく中で、当然のことながら政治との結びつきは重要ではあるものの、やはり時代とともに浮き沈みは激しい。

親類縁者で中核をガッチリと固めた財閥が多いものの、その内部では身内同士での骨肉の争いは日常茶飯であり、しばしば組織の分裂をもたらすこともある。

経済の自由化以降、事業の整理ないしは新規分野への積極的な進出、外資との合従連衡が不可欠となり、流れに乗り遅れた財閥はかつての栄華の見る影もなくなっていたりする。

インドで、こうした財閥について書かれた書籍は少なくないが、日本語で「インドの財閥」を広く俯瞰した本は多くない。また内容が新しい(2011年9月発行)こともあり、現在のインド経済や財閥系企業の歴史について多少なりとも関心のある方には必読の一冊である。

インド財閥のすべて (平凡社新書)

著者:須貝信一

ISBN-10: 4582856047

ISBN-13: 978-4582856040