エボラの脅威は対岸の火事ではない

西アフリカでエボラ出血熱がこれまでにない規模で流行している。

致死率が90%以上と非常に高いこと、発病後の症状が劇的に激しく、治療方法が確立していないことなどから、大変危険な病気であるということは誰もが認識していたものの、これまでは農村部の限られた人口の間で散発的に小規模な感染が伝えられるという具合であったため、この地域における風土病というような認識がなされていたのではないだろうか。

だが今回、ギニアで発生したエボラ出血熱が隣国のシエラレオネとリベリアにも及び、ギニアでは首都のコナクリにまで広がるという事態を迎えており、空前の規模での流行となっている。以下のリンク先記事によれば、感染者は635名に及んでいるという。

史上最悪、西アフリカでエボラ感染拡大(毎日新聞)

今回、これほどまでに感染が拡大したこと、農村の限られた地域での流行と異なる部分などについてはいろいろ指摘されているが、首都での流行については、これが旅客機等により、地続きではない国々にまで飛び火する可能性を秘めていることをも示している。

コナクリからフランス、ベルギーといった欧州の国々、ダカールやモロッコ等の周辺国へのフライトがあり、それらの到着地から接続便で北米やアジア方面にも接続することができる。

そんなわけで、地球のどこの国に暮らしていても、とりわけ今回の流行については、対岸の火事と傍観しているわけにはいかないという危惧を抱かせるものがある。

あまり想像したくないことだが、これが人口稠密で、インドをはじめとする南アジア地域に飛び火するようなことがあったら、あるいは同様に人口密度の高い日本で発生するようなことがあったら、一体どのような大惨事になることだろうか。だがこれは絵空事ではなく、前述のとおり、ごく短時間で世界のどこにでも移動できる現代では、充分にあり得る話である。

流行地からは、このようなニュースもある。エボラ出血熱を発症したものの、完治して生還した事例だ。

エボラ完治「奇跡」の妊婦、喜び語る シエラレオネ(時事ドットコム)

流行の抑え込みとともに、ぜひとも期待したいのは病理学的な解明と治療法の確立である。今はただ、今回の大流行が一刻も早く収束を迎えることを祈るとともに、医療現場で命を賭して患者たちへの対応に当たっている医師たちに敬意と大きな感謝を捧げたい。

ひと続きの土地、ふたつの国

今年もまたラダック地方に中国軍による侵入の試みがあった。

Chinese troops try to enter Indian waters in Ladakh (The Indian Express)

ほぼ時を同じくして、中国でラダックの一部とアルナーチャル・プラデーシュ州全域を自国領として描いた地図を出版している。

Leh residents object to China’s claim over Ladakh in new map (india.com)

繰り返しこのような行為を繰り返すことにより、これらの地域がインドに帰属するものではなく、中国の一部であると内外に主張することにより、これらの地域が係争地であることを風化させることなく、機が熟して何らかの大きな行動を起こした場合にそれを正当化させるための企みであることは明白だ。

このような動きがある限り、J&K州に広く展開する軍備を削減することはできず、財政的に大きな負担を抱える現状は変わることはない。観光以外にこれといった産業のないこの地域において、駐屯する軍に依存する構造も変わることはないだろう。

また、この地域が事実上、地の果ての辺境であるということも変化することはない。もし中国とインドとの間で領土問題が存在せず、国境の両側が経済的に相互依存する関係にあったらならば、地元の人々に対して大いに利することになるはずなのだが。

両国の間に設けられた国境という壁は、ふたつの世界を分断し、相互不信の関係をさらに醸成させていくことになる。北京とデリーという、どちらもこの国境地帯から遠く離れた政治の中心の意思が、地元に住む人々の間でひと続きの土地に引かれた国境の向こうにいる人々に対する敵意を焚き付けて反目させる。

不条理ではあるが、これが現実。さりとてこれが現実とはいえ、はなはだしく不条理なことである。

インドの老夫婦のワールドカップ観戦

7月13日に三位決定戦、そして続く14日に決勝戦を迎えるブラジルで開催されているワールドカップ。

下記リンク先の記事に取り上げられているインドのサッカー好きな老夫婦は、これまで幾度となく開催国に足を運んで観戦しており、今度で9大会目だという。

サッカーW杯観戦に情熱、インド人夫妻9大会目のブラジル(dot.asahi.com)

記事によると、夫妻は決して裕福とはいえないようだが、それでも四年毎に巡ってくるこの大会のためにコツコツと貯蓄に励んでいるとのこと。

一般的な人から見ると、失礼ながら経済的な「バランス感覚がない」ということになってしまうのかもしれないが、好きなことにこれほど入れ込むことができるということ、そして夫婦揃って同じ目的のために頑張っていけるということは羨ましくもあり、また素敵なことだと私は思う。

夫妻はワールドカップでどの試合を観戦したのだろうか。記事には「FIFAが宿泊場所を無料で提供、ブラジルのテレビ局は観戦チケットを用意した」とあるが、ひょっとして7月14日の決勝戦をスタンドから観る幸運に恵まれていたりしたら、これまた嬉しい話である。

ネパールからやってくる人たちが増えた

近ごろ、首都圏でネパール人の姿を見かけることがとても多くなった、とりわけ若い人たちがよく目に付く・・・と感じている人は少なくないことだろう。

それもそのはず、ここ数年来、日本留学の入口となる日本語学校に入るために来日するネパール人が急増しているのである。

こちらの資料(一般財団法人日本語教育振興協会による「日本語教育機関実態調査」P5)をご参照願いたい。

ここに示されているのは、平成21年度から25年度までの日本語教育機関の学生数とその国別内訳だが、従前から日本への留学生出身国のベスト3といえば、中国、韓国、台湾の「御三家」であったのだが、すでに平成21年度において、それ以前は留学生の中ではマイノリティであったベトナム、ネパールが急伸しており、トップの三国に迫るところに来ている。

平成23年度に入ると、すでにベトナムは台湾からの留学生数を抜いて3位に食い込み、4位の台湾とほぼ同じレベルにまで達しているのがネパールだ。ベトナムとネパールは平成25年度には韓国を抜いて、それぞれ2位、3位となり、首位の中国からの留学生の規模には遠く及ばないものの、現在では御三家といえば、中国、ベトナム、ネパールとなっている。

留学生たちの実数で見ると、平成21年度にはベトナム847名、ネパール839名であったものが、4年後の平成25年度には前者が8,436名、後者が3,095名となっている。伸び率はそれぞれ9.96倍、3.69倍である。

その間に、元御三家の韓国は8,360名から2,386名、台湾は2,304名から1,425名へと、それぞれ元の数の0.29倍、0.62倍へと激減しているという背景もある。不動の首位の中国にしてみても、26,632名から18,250名へと、0.68倍という急激な減少がある。

留学生総数にしてみても、平成21年度の42,651名から平成24年度の29.235名という0.69倍という激しい落ち込みから平成25名は37,918名へと持ち直しているものの、それでも平成21年度と比較すると0.89倍という芳しくない数字である。

こういう具合になったことにはいくつかの要素があるので簡単に解説しておきたい。平成18年から19年にかけて、中国からの留学希望者に対する入国管理局や在外公館での審査が厳重となったため、多数の留学予定者対する在留資格認定証が不交付となったり、在外公館で査証が発行されなかったりという事態が多数発生し、日本語学校によっては中国からの入学予定者の半数前後が来日できず、留学をキャンセルというケースが生じた。

もともと零細な規模のものが多い日本語学校の世界では、送り出し数の多い国にパイプを持ち、そこから安定的に学生を供給してもらおうという傾向が強かったのだが、そうした中で、とりわけ中国への依存度が高かった学校の多くは、これを死活問題と捉え、他なる留学希望者送り出し国の開拓に乗り出さなくてはならなくなり、そうした学校にとってそれまでは視野に入っていなかった地域に精力的に働きかけることとなった。

その努力の結果、とりわけ新規来日学生の大規模な招致に繋がったのがベトナムとネパールであった。どちらも移民圧力の高い国であり、その当時までは日本における不法残留率も高くはなかったため、比較的順調に導入することができたといえるのだろう。

その後、来日数が安定的に増えてくるにつれて、すでに来日している者と自国との繋がり、日本語学校による更なる努力による留学需要の掘り起し、送り出し国側のそうした斡旋機関もそうした渡日熱の高まりにアテ込んで、これに加担したということもある。やはりそこは商売である。

異常が、ベトナムとネパールから来日して日本語学校に入る者が急増している背景についての簡単な説明であるが、いっぽうで今も御三家ながらも人数が大幅に減っている中国、元御三家から転落した韓国と台湾の落ち込み具合にはどのような理由があるのかについてもざっと述べておくことにしよう。

まず中国、韓国、台湾いずれについても共通して言えることは、自国経済の順調な成長ぶりと日本の長引く不況から、相対的に日本に対する魅力が薄れてきていることがある。これまで高く見上げていた対象が、相対的にその背丈が自分たちの居る場所から見て、さほど上のほうにあるように感じられなくなってくる。

日本語学校に入るということは、その中のマジョリティは大学や大学院への進学、そして日本での就職、将来的には日本のそのまま定住するという、移民のステップとして捉えている部分は決して少なくない。日本での留学の目的といえば、日本という国そのもの、日本の文化を学ぶというよりも、経済、金融、理工学、その他ハイテク分野といった、いわゆる「実学」を志向する割合が非常に高く、学業を終えた後での定着先としての日本についての期待があまり持てなくなってきているであろうことは、誰も否定できない。

とりわけ韓国については、グローバル市場における自国の一流企業の隆盛と、それに対する日本企業の地盤沈下を目の当たりにして、日本に対する興味・関心が急速に萎んでいくのは仕方のないことであったのだろう。

もちろん中国や台湾と日本の間にある尖閣諸島問題、韓国と日本の間の竹島問題その他の領土に関する論争、はてまた今なおくすぶり続けている歴史問題等々の政治的な事柄による日本に対する政治的なイメージの低下という面も無視できないものがあるにしても、やはり大半は私費で来日する留学生たちにとって、そうした思想的な要因よりも、実利的な要因が大きく作用するのは当然のことだ。

平成20年代に入るあたりから、上で述べた事柄を背景とする留学生数の頭打ち傾向があったのだが、これをさらに決定付けたのは平成23年の春に起きた東日本大震災、いわゆる3.11という大きな出来事であった。

「落ち目だった日本もこれで終わりだ」とまで言うわけではないが、地震、津波よりもむしろ原発事故による影響が大きかった。日本では大変センセーショナルながらも、極力抑えた調子で報道されていたのに対して、海外とりわけ近隣国での報道に抑制を期待できるわけもなく、日本に対する期待値は非常に低くなってしまった。

そうでなくても、これらの国々から人気の留学先としては、アメリカその他の欧米先進国がまず一番手にあり、二番手以降に日本という選択肢があったわけだが、その地位が大きく後退してしまっているのが現状である。

ベトナム、ネパールからの留学生の急増については、もともと需要の高くなかった地域であるだけに、勉学意欲の面でも経費支弁能力の面についても疑問符の付くケースが少なくなく、実際に来日してから雲隠れという事例も多いため、入国管理局による審査も非常に厳格そなものとなっていることは、元御三家の韓国と台湾とは大きく異なる。

総体的には、中国、韓国、台湾からの留学生の落ち込みを補うという点において、数の面からも質の部分からも決して充分なものとは言えないのが現状であるとともに、他にも様々な問題を抱えていることは否めない。

しかしながら、視点を変えれば、これらの国々と新たに緊密な関係を構築する良い機会であるということもあり、とりわけITの分野で地味ながらもそれなりに着実な成長を続けているベトナムから日本に留学する人が急増している中で、様々な問題はあれども、知日家が倍増していくという状況は将来的にプラスに作用することを期待したい。

ネパールについては、すでに日本で実業界その他で活躍している人たちがNRN(Non-Resident Nepalis)として様々な活動をしていることは一部で知られているが、とりわけ著名な存在として、今のネパールからの留学生たちよりもずいぶん早い時期に来日して学び、飲食業界での起業を手始めにネパールからインド、中東の産油国方面へのフライトを飛ばす航空会社を設立するまでに至るとともに、日本からネパールへの空の便の開設を企図しているB.B. Airwaysの代表のヴァッタ・ヴァバン氏が挙げられる。

様々な背景や動機により、日本を必要としてくれている若いネパール人たちの中から、将来の日本が必要とする人材が輩出し、新たな絆が築かれていくこともまた大いに期待したいものである。

ETIM パーキスターンと中国

このところ中国ではイスラーム主義者によるものであるとされるテロが相次いでいる。中国の新疆ウイグル自治区の分離独立を訴える集団による犯行であるとされるが、中国に対するジハードを唱え、中国から民族自決を要求する運動から、中国をイスラーム教徒の敵であると主張するものに変質してきている。

この組織、ETIM(East Turkestan Islamic Movement)は現在パーキスターンのFATA (Federally Administered Tribal Areas ※連邦直轄部族地域)に活動拠点を置いており、中国の手が及ばないところで軍事訓練、武器や資金の供与などを受けているとされる。

この地域はインドが英領であった時代に遡る歴史的な経緯から、パーキスターン領内でありながらも、同国の立法権限が及ぶのは「国道上のみ」という形になっている。同国政府による行政ではなく、ここに暮らす部族による統治がなされる特殊なエリアである。中央政府の権限が及ばない「無法地帯」であることに加えて、部族民たちの尚武の気風もあり、同じイスラーム教徒の反政府組織やテロ組織等に対しては格好の潜伏場所を提供しているとも言える。

常々、「テロ組織を隠匿している」と名指しでインドから非難されてきたパーキスターンだが、これまで地域の最大の友邦として同国を厚遇してきた中国にとって、自国でテロを展開するETIMの活動がエスカレートしていくにつれて、この集団が潜伏しているパーキスターンに対して、強い態度に出る日も遠くはないものと思われる。パーキスターンの港湾や道路等々のインフラ整備に手を尽くすほかに、地域最大の友好国として厚遇を与えてきた中国も、そろそろ考えを改める必要性を検討しているかもしれない。

もちろん中国だけではなく、同地域に潜り込んでいるテロ組織に対する強い懸念を抱く国は少なくないため、パーキスターンに対する外圧は相当なものであるため、ときおりこの地域への軍事作戦がなされている。

ETIM operatives among 50 killed in Pakistan airstrikes (INTER AKSYON)

しかしながら、このような行動は根本的な解決からほど遠いことは誰の目にも明らかであり、パーキスターン政府にとっての「一応、出来ることはやっている」というアリバイ作りに過ぎない。各国が望みたいのは、このような無法地帯の存在を許す現在のシステムの変更であるが、パーキスターンにとってはそのような「暴挙」は自国北西部の安定と秩序を破壊するものであり、隣国アフガニスタンにもまたがって暮らす部族民たちとの信頼関係を根底から崩すことにより、内戦に突入する危険をも覚悟しなくてはならない一大事となる。

最も大きな問題は、当のパーキスターンが自国領内のFATA地域のこうした問題を解決する能力も意思も持たないことだ。FATAのありかたは、今まで以上に地域の安定と秩序に及ぼす影響は非常に大きなものとなる可能性があり、今後目を離すわけにはいかない。

標的にされる中国 「全イスラム教徒の敵」(asahi.com)

ジハード呼びかける動画、狙いはウイグル族 (THE WALL STREET JOURNAL)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 1 (CCTV)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 2 (CCTV)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 3 (CCTV)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 4(CCTV)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 5 (CCTV)

Online terrorism East Turkestan Islamic Movement terror audio and video part 6 (CCTV)