レーにて 1

観光シーズンのこの町には沢山の宿があり、よりどりみどりである。ガイドブックで好意的に取り上げられているところ、ツアー客の利用が多いところなどでは数日先まで予約で一杯ということもあるとはいえ、そうしたコネを持たない宿は宿泊客がほとんどなかったりもして、「これで本当にやっていけるのか?」とこちらが少々心配になってしまうようなところもあったりする。

食事する場所にしても、宿にしても、夏のシーズンにだけオープンしているところが多く、そうした時期にだけ平地のU.P.、ビハール、ジャールカンドといった州や隣国のネパールから来たスタッフを雇って営業していたりする。そうしたスタッフたちは、オフの時期には故郷に帰っていたり、ラダックがオフシーズンの時期にピークとなる他の地域で働いていたりする。

こうした現象は、レーの町中だけではなく、幹線道路沿いに荒野の中にポツンと存在する小さな食堂であったり、カルドゥン・ラを越えた先のヌブラ渓谷にある小さなゲストハウスでも同様であったりする。また、この時期の農村も繁忙期であり、麦や野菜などの収穫をしている村々で、額に汗して働いている人たちの多くが「平地から来たインド人」であることは多いし、気温の高い時期即ち屋外で作業しやすい時期に集中して行われる道路その他の建設工事に従事する人々もまた同様である。

ラダックの観光シーズンにおける季節労働は必ずしも外部の人たちによるものばかりというわけではなく、チャーターしたクルマの運転手はザンスカール地方を含めたラダック地域の人たちが多い。トレッキングガイドについては、夏季休暇中の地元やインドの他の地域の大学で学んでいるラダック人大学生たちが従事していることが多いようだ。

近年盛んになっているラフティングについては、漕ぎ手やリーダー役を務めるのはネパール人が多い。インドのハリドワールに講習所があり、そこで技術を身に付けた者が多いとのことである。

〈続く〉

日本への短期滞在の数次査証

日本とインドの間では査証の相互免除協定がないため、両国の国民が相手国を訪問する際には事前に査証を取得することが必要となる。

相互免除の取決めがない場合においても、例えばタイにおいては日本国籍を持つ人物が空路入国の場合は30日間以内、中国の場合は15日以内の場合は査証無しでの滞在を認めるという措置がなされていることも少なくない。

そうした措置がなされているのは日本国籍に限ったことではないが、相手国からの訪問者が自国で超過滞在、不法就労、法秩序等に係る問題を生じさせる事例が少なく、事前に在外公館の査証発行に関わる事務手続き等の負担を軽減させることや観光促進等の目的などでこのようなことがなされることが多い。

また、いかなる滞在期間、目的であっても査証の取得は必須ということになっていても、カンボジアのように、観光目的であれば入国時に滞在可能期間30日の査証が取得できるような国もある。入国前の事前審査という部分が形骸化しており、事実上の入国税的なものとなっていると捉えることもできるかと思う。

インドにおいても、Tourist Visa on Arrivalという制度により、カンボジア、フィンランド、インドネシア、日本、ラオス、ルクセンブルク、ミャンマー、ニュージーランド、フィリピン、韓国、シンガポール、ベトナム国籍の人々が観光目的で訪印する場合について、バンガロール、チェンナイ、デリー、ハイデラーバード、コーチン、コールカーター、ムンバイー、トリバンドラムの空港から入国する場合においては、その場で30日以内の滞在が可能となる査証が発行されることになっており、私たち日本人にとっては、インドを旅行するにあたり査証取得についてのひとつの選択肢となっている。

さて、日本においては査証相互免除協定を結んでいる相手国以外において、本来は観光目的というわけではないが、国によっては数次有効の短期滞在査証の制度の対象としている。

数次有効の短期滞在ビザ(外務省)

今年の7月からは、この制度がインド国籍の人々にも適用されることとなった。観光目的での取得も可能としていること、インド国籍の人が第三国でも申請可能としている点(申請人が居住している国以外では申請不可)において、他国籍の人々に対するものよりも多少弾力的に運用されるものであるように思われる。査証の有効期限は1年間または3年間、滞在期限は1回あたり15日以内である。

ンド国民に対する短期滞在数次ビザの発給開始について (在インド日本国大使館)

インド国民に対する数次有効の短期滞在ビザ申請手続きの概要 (外務省外国人課)

日印間での人々の往来が以前よりも活発になってきている昨今、日本でITその他の分野で働くインドの人々自身以外にも、その親、配偶者、子供といった関係にある人々による日本への短期訪問も相当増えているうえに、日本に居住する親族訪問以外ではなく観光目的でやってくるケースも決して珍しいものではなくなってきている。

同様に、インドでも日本人に対して有効期限5年間くらいで、1回の滞在可能期間が30日以内・・・といった具合の数次査証を発行してくれるようになるといいのだが、などと虫の良いことを夢想してみたりしてしまう。

ターラープルの原発を取り上げた映画「ハイ・パワー」

2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれにともなう福島第一原発の深刻な事故が発生した後、しばらくの間は日本国内で盛り上がった反原発運動だが、このところずいぶん「鎮静化」してしまったのが気にかかる。

まさに「喉元過ぎれば・・・」ということわざどおりなのかもしれないが、当の原発事故はいまだ終息したわけではなく、現在も進行中であること、この事故による被災者の方々はいまなお避難生活を送ることを余儀なくされていること、汚染が危険なレベルであるにもかかわらず、効果のよくわからない「除染」で誤魔化してしまおうとしている行政等々、さまざまなトラブル等がすべて未解決である現状を思うまでもなく、日本人である私たちが直視して考えていかなければならない問題だ。

インドのマハーラーシュトラ州のターラープルといえば、原子力発電所があることで知られているが、この原発が地元に与え続けてきた負の面を告発した映画である。あらすじについてはこちらをご参照願いたい。

すでに日本国内のいくつかの場所ですでに確定した上映スケジュールが告知されているが、興味深いのは映画の内容だけではない。上映と監督ともに「招聘」することができるという部分も特筆すべきところだ。

原発については、その存在の是非だけではなく、これによって支えられる産業のありかた、成り立つ社会のありかた、ひいてはインド、日本その他の国による区別もない、地球上の私たちの暮らしのありかたを含めて、みんなが真面目に考えていかなくてはならない問題である。

※映画紹介のウェブサイトには「タラプール」とありますが、正しくは「ターラープル」であるため、本記事における記載は「ターラープル」としました。

エボラの脅威は対岸の火事ではない

西アフリカでエボラ出血熱がこれまでにない規模で流行している。

致死率が90%以上と非常に高いこと、発病後の症状が劇的に激しく、治療方法が確立していないことなどから、大変危険な病気であるということは誰もが認識していたものの、これまでは農村部の限られた人口の間で散発的に小規模な感染が伝えられるという具合であったため、この地域における風土病というような認識がなされていたのではないだろうか。

だが今回、ギニアで発生したエボラ出血熱が隣国のシエラレオネとリベリアにも及び、ギニアでは首都のコナクリにまで広がるという事態を迎えており、空前の規模での流行となっている。以下のリンク先記事によれば、感染者は635名に及んでいるという。

史上最悪、西アフリカでエボラ感染拡大(毎日新聞)

今回、これほどまでに感染が拡大したこと、農村の限られた地域での流行と異なる部分などについてはいろいろ指摘されているが、首都での流行については、これが旅客機等により、地続きではない国々にまで飛び火する可能性を秘めていることをも示している。

コナクリからフランス、ベルギーといった欧州の国々、ダカールやモロッコ等の周辺国へのフライトがあり、それらの到着地から接続便で北米やアジア方面にも接続することができる。

そんなわけで、地球のどこの国に暮らしていても、とりわけ今回の流行については、対岸の火事と傍観しているわけにはいかないという危惧を抱かせるものがある。

あまり想像したくないことだが、これが人口稠密で、インドをはじめとする南アジア地域に飛び火するようなことがあったら、あるいは同様に人口密度の高い日本で発生するようなことがあったら、一体どのような大惨事になることだろうか。だがこれは絵空事ではなく、前述のとおり、ごく短時間で世界のどこにでも移動できる現代では、充分にあり得る話である。

流行地からは、このようなニュースもある。エボラ出血熱を発症したものの、完治して生還した事例だ。

エボラ完治「奇跡」の妊婦、喜び語る シエラレオネ(時事ドットコム)

流行の抑え込みとともに、ぜひとも期待したいのは病理学的な解明と治療法の確立である。今はただ、今回の大流行が一刻も早く収束を迎えることを祈るとともに、医療現場で命を賭して患者たちへの対応に当たっている医師たちに敬意と大きな感謝を捧げたい。

ひと続きの土地、ふたつの国

今年もまたラダック地方に中国軍による侵入の試みがあった。

Chinese troops try to enter Indian waters in Ladakh (The Indian Express)

ほぼ時を同じくして、中国でラダックの一部とアルナーチャル・プラデーシュ州全域を自国領として描いた地図を出版している。

Leh residents object to China’s claim over Ladakh in new map (india.com)

繰り返しこのような行為を繰り返すことにより、これらの地域がインドに帰属するものではなく、中国の一部であると内外に主張することにより、これらの地域が係争地であることを風化させることなく、機が熟して何らかの大きな行動を起こした場合にそれを正当化させるための企みであることは明白だ。

このような動きがある限り、J&K州に広く展開する軍備を削減することはできず、財政的に大きな負担を抱える現状は変わることはない。観光以外にこれといった産業のないこの地域において、駐屯する軍に依存する構造も変わることはないだろう。

また、この地域が事実上、地の果ての辺境であるということも変化することはない。もし中国とインドとの間で領土問題が存在せず、国境の両側が経済的に相互依存する関係にあったらならば、地元の人々に対して大いに利することになるはずなのだが。

両国の間に設けられた国境という壁は、ふたつの世界を分断し、相互不信の関係をさらに醸成させていくことになる。北京とデリーという、どちらもこの国境地帯から遠く離れた政治の中心の意思が、地元に住む人々の間でひと続きの土地に引かれた国境の向こうにいる人々に対する敵意を焚き付けて反目させる。

不条理ではあるが、これが現実。さりとてこれが現実とはいえ、はなはだしく不条理なことである。