地震・津波そして原発 1

このたびの地震による災害により亡くなられた方々にお悔やみ申し上げるとともに、被害に遭われた方々の一日も早い回復と被災地の復興を切に願いたい。 

未曾有の災害を引き起こした巨大地震、震源地は東北地方の沖合であったことから、言うまでもなく地震そのものによる建物の倒壊等の被害はさほどでもなかったようだが、その後この地域の太平洋沿岸を襲った大津波が主たる原因である。もちろんそれを引き起こしたのが、複数の震源地が連動する形で起きた巨大地震だ。 

地震発生当初は、電話等の通信手段の途絶、交通の遮断等により、被災地の様子がよくわからなかったものの、やがて現地から刻々と伝えられる情報から、地震大国日本であってもこれまで経験したことのない規模の災害であることがわかってくるまで時間はかからなかった。 

被災前の福島第一原子力発電所

そのあたりまでは被災地の状況、被害者の現況等々に集中的にスポットが当たっていたのだが、まもなく福島県の原子力発電所が危機的状況であることが明らかになるにつれ、こちらに軸足を移した報道が多くなってきた。 

やや押さえたトーンで伝えていた日本国内のメディアと違い、とりわけ日本国外のメディアの中でとりわけ影響力の大きなものが率直な意見を述べると、原発事故関係の報道は一気に加熱した。 

日本語による報道でも『東日本大震災』であったり『東北・関東大震災」であったりと一定していないが、海外への伝わり方は報道や単なる伝聞を含めてさらに混乱している模様。メディアといっても、その質や信頼性は様々であるため、流言蜚語の類も少なからず見られた。インターネットの掲示板等による伝聞ともなるとなおさらのことだ。とりわけ地震発生直後、そして原発の異常が伝えられた直後には、ずいぶん飛躍した噂の類が広く流布したケースもあったようだ。 

そんなわけで、ある国々では日本の東北地方太平洋沿岸で起きた地震と津波の災害について『東京に大津波来襲、市街地大半壊滅状態』とか、原子力発電所の建屋の中で水素爆発が起きたことについて、日本国外では『自衛隊基地に格納されていた水素爆弾の破裂により大惨事』といった、事実と異なる認識をした人も少なくないことに気がついた。その後、様々なソースから現状が伝えられることにより、そうした明らかに誤りである伝聞を信じている人はほとんどいなくなっているはずだが。 

確かに地震の規模や津波被害、そして大地震が連鎖するかのように長野県、静岡県で異なる震源による大きな揺れを記録するなど不穏な状況にあるが、それよりもかなり高いレベルの放射能漏出と、立て続けにあまりにも多くの不安材料が表出したことが重く受け止められているようだ。これに対する各国の対応、在日外国人たちの反応も素早かった。

在京のドイツ大使館が機能の大半を大阪・神戸の領事館に一時的に移転させたように、西日本の都市に大使館業務を『疎開』させた国はすでにいくつもある。また在日の自国民に退去勧告を出したり、帰国のためのチャーター便を用意したりした国も多い。アラブ首長国連邦、サウジアラビア、タイ等から政府派遣留学生として日本に来ている学生たちにも早々に帰国指示が出て、多くはすでに自国に戻っている。 

外資系企業では、社員を国外や西日本方面に退避させたり、自宅勤務させたりしているところもかなり出てきている。また日本に出稼ぎに来ている外国人たちについても、相当数が急いで出国したり、今後速やかに帰国することを予定したりしているようだ。そうした人々の多くは、チケット代金に糸目を付けず、席が確保できるならば何でもと買い求めるケースも少なくないと伝えられることから、彼らの緊張感がうかがわれる。 

もちろん放射能漏れに対する認識や考え方による相違はある。だが一昨年の新型インフルエンザ流行初期における日本国内の激しい動揺ぶりを思い起こせば、もし同様の事故が他国で起きたとすれば、日本政府はその土地に在留する邦人たちに対する『速やかな国外退去』へと動くことは間違いない。ただ今回はその事故が日本国内で起きた。それがゆえに逃げようにも行く先がないため、抑制した反応をするしかないというのが正直なところだろう。 

これまで『安全である』とされてきた日本。国土や周辺地域に多数の活断層を抱える地震の巣のような面があるため、ときおり大きな地震が発生して局地的に相当規模の被害を出すことは珍しくなかった。それでも今回のように外国人住民たちが大挙して国外へ脱出するような『危険な状態』と認識されるようなことが起きるなどとは、想像しがたいものであった。

現在、様々な国々で日本から輸出される食品について、放射能汚染の検査が実施されるようになっている。

Radiation checks stepped up on Japanese food imports (asahi.com) 

同様に日本から到着する旅客についても同様にチェックがなされるようになっているところが多い。そうした中でやはり検出される放射線レベルが高い乗客が見つかっている。 

Radiation trace found on Japan air passengers to S.Korea (REUTERS) 

Tokyo passengers trigger off radiation detectors at Chicago airport (YAHOO ! NEWS)

今のところ公衆衛生に支障を来たすような数値が検出された乗客の存在は認められていないものの、そうしたケースが生じた場合にどういう対応がなされるのかはよくわからない。 

インドでもすでにデリーならびにチェンナイの国際空港にて、日本からの乗客や荷物に対する放射線のモニターが開始されている。 

Radiation counter opens at airport but yet to hear a bleep (THE TIMES OF INDIA) 

そうした中、ムンバイーの国際空港はこれに関する対応が遅れていることを憂慮する記事もあった。

Is city exposed to radiation? (MID DAY) 

被爆した人物と接触することにより、どれほどの影響があるのかはよくわからないが、人の行き来はさておき、今後は世界各地で日本製品・産品に対する買い控え等の影響が出ることは想像に難くない。 また日本から帰国したインド人の談話を掲載したメディアもある。

Nightmare in Tokyo: Indians tell tales of horror (Hindustan Times) 

またフェイスブック等でも、このたびの一連の騒動の中で帰国あるいは第三国へに出た人たちによるコメント等が書き込まれているのを目にすることができる。

今回の一連の騒動を受けて、各国で原子力発電事業そのものを見直そうという動きさえ出ている。インドでも同様の懸念の声が一部から上がっている。 

Japan nuclear meltdown raises concerns in India (ZEE NEWS)

原子力発電所における地震や津波による被災と同様に懸念されるのは、テロあるいは他国による攻撃といった人為的なファクターだろう。たとえそれにより最悪の事態を引き起こすことがなくても、その国のイメージを著しく損ない、大きな社会不安を引き起こす。 

2001年にアメリカで起きた同時多発テロでの標的がツインタワーやペンタゴンではなく、原子力発電所であったとすれば、また違った次元の恐怖を引き起こすことになったはずだ。

<続く>

※サートパダー2は後日掲載します。

東日本大震災

3月11日に発生した東日本大震災は、複数の大きな地震が同時多発するという想定外のものであるとのこと。地震直後に東北の太平洋側沿岸等を大津波が襲った。甚大な被害により、ほぼ消失してしまった町や集落も少なくなく、電気や通信その他にライフラインが寸断されていること、被災により現地の行政機構が機能を失っているところも多々あるようで、被害の全容が明らかになるまで、まだしばらくかかるはずだ。 

地震発生当日の朝、それまで宮城県周辺で続いていた群発地震は終息の方向にあるとの気象庁による観測がウェブ上で伝えられていただけに信じられない思いがした。地震は現代の技術をもってしても予測し難いものなのだろう。 

地震発生直後から、内外の様々な友人から心遣いの電話、メール等をいただいて大変ありがたく思っている。同時に日本在住のインド人の方々、とりわけ日本語がよくわからない人たち、あるいは日本語の会話は相当できても、日本語の読み書きのできない人たちは少なくない。すると震災に関する迅速な文字情報の欠如により、日本に住んでいながらも海外から伝えられるニュースに頼る部分が少なくないことに気がついた。もちろんこれは在日のインド人に限ったことではなく、その他すべての国の人たちに共通するものであるのだが。 

2005年12月のスマトラ沖を震源とする巨大地震により、インドネシアや周辺各国に押し寄せた津波被害を彷彿させる、恐ろしい映像がテレビ等で流れているのを見て「これは大変なことになっている」と背筋が凍る思いをしていると、今度は福島県の原子力発電所の爆発事故のニュースが飛び込んできたのは昨日のこと。地震・津波被害に加えて、スリーマイル島、チェルノブイリに続く重篤な原発事故発生か?と日本国内外のメディアが注視しているところだ。まるで近未来の大災害を描いたSF映画のシーンかと思うような映像や出来事が次々と伝えられている。 

私たちのライフスタイルがいかに進化しようとも、突如降りかかってくる天災の前では無力である。ほぼ定期的に繰り返される大地震のメカニズム、それに伴い発生する津波等から自らを守る手段はない。ひとたびそうした災害が発生すれば、普段はごく当たり前に享受している幸福、安心、平和が一瞬のうちに吹き飛んでしまう。 

観測史上初とされる未曾有の大災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。被災地では今も避難されている方々、救助を待っておられる方々も多い。これらの土地ではまだ気温が低く、雪が舞っていたりもする。被災された方々の心痛、また救援活動に従事される方々の苦労は測り知れないが、どうか一日でも早い復興をと願わずにはいられない。

リビア インド人たちの脱出準備

 カダフィ大佐による長期政権が最大の危機を迎えているリビアでは、18,000人のインド人たちが住んでいることから、インド政府は自国民の脱出のための準備を進めているとのことだ。 

India sends ship to Libya to evacuate 1,200 Indians (Sulekha.com)

上記リンク先記事にあるとおり、エジプトでチャーターした1,200人乗りのフェリーを日曜日までに東部の街ベンガーズィーに到着させ、エジプト北部の港町アレクサンドリアへ脱出させる予定。同時に首都トリポリやその他の内陸部の地域への救援機の乗り入れも予定しているとのことだ。 

チュニジアで発生した民衆蜂起デモによる政変は、エジプトのムバラク大統領退陣、そしてリビアでも同様の危機を迎えており、バーレーンでも大規模なデモに発展するとともに、その他の湾岸諸国でも不穏な動きが見られるようになっている。

少し前まで政治的に盤石であると思われていた地域でこうしたドミノ現象が起きていることについて驚くばかりであるが、同時に大産油国が名を連ねる地域でもあることから、早くも原油価格の高騰が伝えられているのはご存知のとおり。 

各地で今後も民衆蜂起の連鎖が続くかどうかという懸念とともに、長きに渡り独裁を続けてきた支配者が去った後の真空状態を埋めるにはいったいどういう体制なのか、安定は望めるのか等といったことも心配されている。この地域の人々にとって民主化を求める代償は決して安くはない。 

同時に、その地域外に住んでいる私たちにとっても、世界のエネルギー供給の大半を占めるこの地域を誰が治めるか、どういう体制が敷かれるのかということは大変気になるところだ。 

産油国であるリビア、バーレーンでの動きを考え合わせれば、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールといった更に豊かな国々でさえも、この流れと無縁とは必ずしも言い切れない。 

日本からの視点よりも、インドから眺めたほうが事はもっと深刻かもしれない。地理的な近さもさることながら、自国の膨大な労働力の吸収先である湾岸諸国に騒ぎの火の手が迫りつつあるからだ。原油価格高騰と合わせて、今後が非常に懸念されるところである。今後の推移を見守りたい。

Missing ! 大量の爆発物

ラージャスターン州のドールプルにある公営企業の工場からマディヤ・プラデーシュのサーガルに運ばれる途中だった爆発物と起爆剤を積んだトラックが、今年4月から7月までの間になんと61台も行方不明になっているというニュースがメディアで報じられたのは8月半ばであった。 

これらは掘削目的で製造・運搬されていたものということだが、トラック61台の積荷は合わせて300トンという大量の爆発性の危険物であり、テロ組織等の手に渡っているのではないかと懸念されていたことは言うまでもない。 

61 trucks carrying tones of explosives go missing (videos from India) 

その報道の数日後、行方不明になったトラックのうち4台が発見されたとのニュースが流れたものの積荷は見つかっていない。またトラックを運転していた人々はどこに行ってしまったのだろうか。行方不明の61台のうちの58台は、書面上では目的地であるサーガルに到着しているように偽装されていたとのことだ。 

4か月のうちに散発的に起きた事件とはいえ、全体でこれほど大掛かりなトラックを蒸発させることができるのは一体どういう犯人たちなのか。これほど沢山の『戦利品』をどこに秘匿できるのかという点から、第一に疑われるのは当の取引関係者たちだ。これが積荷の横流しや架空取引等を繰り返していた結果であるとすれば、金額はともかく扱っていたものが爆発物と起爆剤という国の治安への影響から、歴史に残る経済事件となる可能性がある。 

300 tonne explosive missing (The Tribune) 

だがここにきて、事件はとんでもない展開を見せている。行方がわからなくなっているトラックが、なんと『あと102台もある』というのだ。これらも先述のラージャスターン州のドールプルからマディャ・プラデーシュのサーガルならびにアショークナガルに運搬途中に蒸発してしまったものだという。積荷の総量は合わせて850トンに達する見込みだ。 

163 explosives-laden trucks went missing: MP police (ZEE NEWS) 

まだ事件の全容や背後関係が明らかになっていないため、現時点でいろいろコメントするのは早計かもしれないが、危機管理という点においてインドという国の足元そのものが脆弱であることを如実に示した事件でもある。 

今年10月の英連邦大会開催までひと月あまりとなっているが、失踪中の163台のトラックに積まれた危険物の行方が気になるところだ。

奇襲!

これはテロというよりも、まぎれもない戦争である・・・と私は思う。先週土曜日にパーキスターンのイスラマーバード郊外にある同国陸軍本部を武装集団が襲撃し、人質を取って立てこもった事件である。
Brazen attack hits Pakistan army HQ (DAWN.COM)
Skilled commandos rescue hostages (DAWN.COM)
反政府勢力のタリバーンが犯行声明を出しており、軍の側の警備の不手際も指摘されているが、テロリストたちによる軍中枢を狙った奇襲作戦の『華々しい戦果』の裏には、天地驚愕させるような大仕掛けや綿密に練り上げた陰謀があったのではなかろうか。今後次第に明らかにされるであろう、この事件の背景に関わる様々な情報に注目していきたい。
大規模なテロ事件の続発、著名政治家の暗殺、タリバーン勢力によるスワート地方の実効支配と政府軍による奪還等々に加えて、中央政府の不安定な政権運営など、気がかりなことばかりが常態化しているパーキスターンの政情だが、近年の出来事の中でも最大級の衝撃的な事件である。
いまや印パ関係以上に、パーキスターンという国自体の行方を案じずにはいられない。隣邦がどういう国になっていくのか、インドにとって外交上の問題のみならず、自国内においても相当な影響を及ぼしていくことは必至である。