レーにて 4

「おーい!また来たんだね!」

レーのメインマーケット界隈を歩いていると、誰かが背後から声をかけてきた。

振り向くと、そこでニコニコしているのは、昨年アリアン・バレー等に行くときに頼んだ運転手、ザンスカールからこの時期のレーに働きに来ているナワンさんであった。

「やあ、元気そうだね。今年はいつごろまで仕事なんだい?」

3年続けて訪問しているとはいえ、滞在期間は短いし、話をしたりする人は限られているものの、夏の時期にレーで商うために来ているカシミール人、レストランに出稼ぎに来ているネパール人、地元ラダック人の旅行代理店スタッフ等々、旅行者相手の仕事をしている人たちによく声をかけられる。何はともあれ、日々多くの人々を相手にしていながらも、こちらのことを覚えてくれているのは嬉しい。

道路を掘り返して工事中

レーのメインマーケット界隈は、再開発とやらでちょっと忙しい感じになっている。道路が通行止めとなり、路面を掘り起こしての工事が進行中。完成すると、ちょっと小洒落た一角になる予定らしい。

このような感じになる予定らしい。

「ポプラの木は切り倒されてしまったし、なんか風情がなくなってしまうようで、どうかな?と思うんだけれどもね。」という人もあれば、「キレイになるのが楽しみだよ。」という者もある。

いずれしても、限られたエリアでの再開発であり、夏のシーズンにおける集客効果を狙ったものであるがゆえに、それで何かが大きく変わるわけではなさそうだ。

メインマーケットの裏手の旧市街の小路が入り組んだムスリム地区は、どこか中央アジアを思わせる雰囲気があり、土釜で焼いた挽肉入りのサモーサーをかじりながらフラフラと散歩するのがとても心地よい。

〈完〉

レーにて 3

宿泊している宿のすぐ隣にあるPadma Guest Houseの屋上のレストランが私のお気に入りである。

Padma Guest House屋上のレストランからの眺望

レーの町にありながらも、周囲の眺めが開けているため、畑の向こうに広がる山あいのパノラマ風景を楽しむことができる。

ここで出される食事はおいしいが、さりとてそれらが特別に・・・というわけではないし、メニューがとりわけ多いわけではないのだが、やはりこのロケーションの良さと、利用者がほぼこのPadma Guest Hose宿泊客だけという静かで落ち着いた雰囲気もいい。

朝早くにこのレストランがあるテラスから眺める風景、夕方陽が落ちてから次第に暗くなっていく山並みの眺望、スカッと晴れた日の昼間、曇りでどこかからか雷鳴が聞こえてくる午後など、いずれの時間帯や天気でもそれぞれの味わいのある心地よいロケーションだ。

シーズンオフの厳冬期も営業しているのかどうかは知らないが、ピリピリと冷たい空気の中で、白い雪を被るエリアがすっかり広くなった山々を望むのも大変いい感じなのではないかと想像してみたりする。

〈続く〉

レーにて 2

ここ3年ほど夏にはラダックを訪問しているが、レーでの常宿となっているのはSia-La Guest house

ラダック人ムスリム家族が経営する宿で、庭いっぱいに栽培されている野菜と周囲のポプラの木の葉の緑が目に心地よい。今年からは母屋とそれに面した芝生のところでWifiを利用できるようになっていて、ますます快適になった。オーナー夫婦は話好きな人で、彼らの人柄を慕っての常連客が多いようだ。観光客以外にもNGO等で活動している人たちの利用もかなりある。

レーの町は際限なく広がっていっているように思えるが、宿の奥さんの話によると、レーの町が広がっているのはラダック地域内の他のエリアからの人口の流入、村からの人口の流入等があるのだそうだ。町の外縁部では土地を占拠しての違法建築も増えているとか。

違法建築はともかく、レーとその他の地域では学校の教育の質、就業機会、給電や給水の状態はもとより、その他様々なあらゆる面での格差が大きいため、レーに集中してしまうのはわかる。北方のヌブラよりも先のトゥルトゥクあたりからもかなり来ているそうだ。

それ以外にも、レーの町中ではインダス河をしばらく下った先で、ラダックの中では低地にあたる通称「アリアン・バレー」地域の人たちの姿もあり、ほおずきや花を頭にあしらった女性の姿をときどき目にする。モンゴロイド系の一般的なラダック人たちとは異なるアーリア系の風貌をした人々である。

村の若い人たちが町に大勢来てしまい、村で畑仕事する人たちが減ってしまったりということもあるようだ。村で農作業している低地からやってきた出稼ぎインド人たちが大勢いるのもそういう理由があるのかもしれない。

だが治安面での懸念等はないのだろうか。とりわけ若い男性ばかりということになる出稼ぎ人たちだが、そのような問題もはらんでいることが想像できなくない。

田舎から町に出てくる人たちが多いのと同様に、レーの人たちの間でもやはり子供たちをデリーやチャンディーガルの学校に送ったり、仕事を求めてインドの他の地域に行ったりということは少なくないようだ。

こうした事柄は、日本における農村から町へ、町から主要都市や東京へという人口の移動とも似た性格があるようにも思われる。

〈続く〉

レーにて 1

観光シーズンのこの町には沢山の宿があり、よりどりみどりである。ガイドブックで好意的に取り上げられているところ、ツアー客の利用が多いところなどでは数日先まで予約で一杯ということもあるとはいえ、そうしたコネを持たない宿は宿泊客がほとんどなかったりもして、「これで本当にやっていけるのか?」とこちらが少々心配になってしまうようなところもあったりする。

食事する場所にしても、宿にしても、夏のシーズンにだけオープンしているところが多く、そうした時期にだけ平地のU.P.、ビハール、ジャールカンドといった州や隣国のネパールから来たスタッフを雇って営業していたりする。そうしたスタッフたちは、オフの時期には故郷に帰っていたり、ラダックがオフシーズンの時期にピークとなる他の地域で働いていたりする。

こうした現象は、レーの町中だけではなく、幹線道路沿いに荒野の中にポツンと存在する小さな食堂であったり、カルドゥン・ラを越えた先のヌブラ渓谷にある小さなゲストハウスでも同様であったりする。また、この時期の農村も繁忙期であり、麦や野菜などの収穫をしている村々で、額に汗して働いている人たちの多くが「平地から来たインド人」であることは多いし、気温の高い時期即ち屋外で作業しやすい時期に集中して行われる道路その他の建設工事に従事する人々もまた同様である。

ラダックの観光シーズンにおける季節労働は必ずしも外部の人たちによるものばかりというわけではなく、チャーターしたクルマの運転手はザンスカール地方を含めたラダック地域の人たちが多い。トレッキングガイドについては、夏季休暇中の地元やインドの他の地域の大学で学んでいるラダック人大学生たちが従事していることが多いようだ。

近年盛んになっているラフティングについては、漕ぎ手やリーダー役を務めるのはネパール人が多い。インドのハリドワールに講習所があり、そこで技術を身に付けた者が多いとのことである。

〈続く〉

日本への短期滞在の数次査証

日本とインドの間では査証の相互免除協定がないため、両国の国民が相手国を訪問する際には事前に査証を取得することが必要となる。

相互免除の取決めがない場合においても、例えばタイにおいては日本国籍を持つ人物が空路入国の場合は30日間以内、中国の場合は15日以内の場合は査証無しでの滞在を認めるという措置がなされていることも少なくない。

そうした措置がなされているのは日本国籍に限ったことではないが、相手国からの訪問者が自国で超過滞在、不法就労、法秩序等に係る問題を生じさせる事例が少なく、事前に在外公館の査証発行に関わる事務手続き等の負担を軽減させることや観光促進等の目的などでこのようなことがなされることが多い。

また、いかなる滞在期間、目的であっても査証の取得は必須ということになっていても、カンボジアのように、観光目的であれば入国時に滞在可能期間30日の査証が取得できるような国もある。入国前の事前審査という部分が形骸化しており、事実上の入国税的なものとなっていると捉えることもできるかと思う。

インドにおいても、Tourist Visa on Arrivalという制度により、カンボジア、フィンランド、インドネシア、日本、ラオス、ルクセンブルク、ミャンマー、ニュージーランド、フィリピン、韓国、シンガポール、ベトナム国籍の人々が観光目的で訪印する場合について、バンガロール、チェンナイ、デリー、ハイデラーバード、コーチン、コールカーター、ムンバイー、トリバンドラムの空港から入国する場合においては、その場で30日以内の滞在が可能となる査証が発行されることになっており、私たち日本人にとっては、インドを旅行するにあたり査証取得についてのひとつの選択肢となっている。

さて、日本においては査証相互免除協定を結んでいる相手国以外において、本来は観光目的というわけではないが、国によっては数次有効の短期滞在査証の制度の対象としている。

数次有効の短期滞在ビザ(外務省)

今年の7月からは、この制度がインド国籍の人々にも適用されることとなった。観光目的での取得も可能としていること、インド国籍の人が第三国でも申請可能としている点(申請人が居住している国以外では申請不可)において、他国籍の人々に対するものよりも多少弾力的に運用されるものであるように思われる。査証の有効期限は1年間または3年間、滞在期限は1回あたり15日以内である。

ンド国民に対する短期滞在数次ビザの発給開始について (在インド日本国大使館)

インド国民に対する数次有効の短期滞在ビザ申請手続きの概要 (外務省外国人課)

日印間での人々の往来が以前よりも活発になってきている昨今、日本でITその他の分野で働くインドの人々自身以外にも、その親、配偶者、子供といった関係にある人々による日本への短期訪問も相当増えているうえに、日本に居住する親族訪問以外ではなく観光目的でやってくるケースも決して珍しいものではなくなってきている。

同様に、インドでも日本人に対して有効期限5年間くらいで、1回の滞在可能期間が30日以内・・・といった具合の数次査証を発行してくれるようになるといいのだが、などと虫の良いことを夢想してみたりしてしまう。