お手回り品にご注意

 カフェでのこと。斜向かいに一人で座っていた女性が立ち上がり、奥の化粧室のほうへと向かった。「ここにいます」という意思表示のためだろうか、財布と携帯電話をテーブルの上に置いたまま。幸運にもいままで盗られた経験がないのだろう。
 傍目には「ちょっと危ないな」と思えても、当人が被害をこうむることがなければよいのかもしれない。「安全」に対する意識は、なんといっても経験に基づき作られるからだ。
 用心しなくて済むのなら、それに越したことはない。家の窓に鉄格子がはめられていることはないし、閉店後も店のショーウィンドウには高価な品々が飾られている。カギをかけてみたところで、ガラスという一枚の脆い薄板に過ぎないということは誰もがよくわかっている。それでも周到な防備を必要としないのは、日本社会の良いところでもある。
 以前、カルカッタの繁華街で、お金を盗られてしまったという女性に会った。
「ちゃんとポーチに入れておいたのに」
と彼女は言う。首からかけた貴重品袋をショルダーバッグのように服の外に出していたらしい。人ごみの中をかきわけて歩き、ふと気がつくとそれが消えていた。彼女はあまり海外を訪れたことがなくインドに来たのも初めてだという。日本国内ではこんな風にポーチを盗られた経験がなかったのだろう。
 「日本にある我々の取引先にもって行けば、高値で買い取ってくれる」と価値のないクズ宝石を大量に購入させる手口は有名。様ざまな詐欺があるが、そうした怪しい話に簡単にひっかかってしまうのも、これまでの経験と照らし合わせ「大丈夫」と判断したからだ。

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自殺率世界ワースト1

「10万人あたり14.5人、男性は女性の約3倍」。気が重くなる話題だが、これは世界の「自殺の平均値」だそうだ。男性は10.9人、女性は3.6人。男女平等とはいうものの、平たくならしてみると総じて男性のほうにかかるストレスが大きいのか、あるいは女性のほうが逆境に強いということなのか。
この統計、南インドでは10万人あたり女性148人、男性58人という非常に高い数字になっている。男性は世界平均の5.3倍、女性はなんと41.1倍というのはにわかに信じられない。記事には詳しく触れられていないが、背景にはどんな原因が潜んでいるのだろうか?

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漢字から眺めたインド

 普段、日本人の私たちは漢字圏の国ぐにの地名・人名を漢字で表記し、そのほかの地域についてはカタカナを使っているが、中国語では当然のことながら世界中のあらゆる土地の名前を漢字で書いている。東南アジアの河内(ハノイ)、バンコク(曼谷または盤谷)、ヤンゴン(仰光)、シンガポール(新加坡)などは、現地でも華人が多いため、こうした綴りをよく目にする。
 インドの地名はどうなっているのだろうか。国名「印度」はともかくとして、徳里(デリー)、恒河(ガンガー)、古吉拉徳邦(グジャラート州)、孟加拉湾(アラビア海)などローマ字表記と照らしてみれば「なるほど」と思うが、日本では馴染みがない。
 周辺国の都市を見回せば、伊斯蘭堡(イスラマバード)、廷布(ティンプー)、馬累(マーレ)など。加徳満都(カトマンズ)なんていうきらびやかな綴りもある。漢字で書いてみると、ちょっぴり「大唐西域記」のムードが漂っている(?)気がする。

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「長生き」って素晴らしい

 昨年5月に「世界一ながい老後」として紹介した125歳(本人によると132歳)の、ラージャースターン州在住ハビブ・ミヤーンさんがふたりの曾孫さんとともにメッカ巡礼に参加した。
 藩王国時代からジャイプルで暮らし、ガーンディーによる塩の行進(1930年)が行なわれたころ、すでに52才。インド独立(1947年)の時点で、69才になっていた人が、2004年、メッカに旅立つなんて信じられない。両目の視力はすでに失われているとはいえ、この年齢で長距離の移動をできるのだから恐れ入る。
 巡礼を実現させるため、寄付をよせてくれた人々に感謝し、彼はいま、神の祝福と加護を全身で感じているに違いない。長生きはなんと素晴らしいことか!
▼世界最高齢のメッカ巡礼
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3455781.stm

混乱の中から生まれるもの

 先日、デリーで友人に誘われ、シュジャート・カーンのコンサートに行ってきた。
 やはりこういうところに来ているのは、裕福な人たちだ。顔立ちといい、格好といい、インテリジェンスに満ちた雰囲気が…と持ち上げるのは大げさだが、かなりスノッブな感じがする。古典音楽に関心を持ち、わざわざ足を運ぶからには、それなりに文化的な人たちなのだろう。
 開演前の会場では、携帯電話を使う人が沢山いた。司会者による演奏者紹介がひとしきり終わっても、鳴り止まない着信音に耐え切れなくなった観客のひとりが突然立ち上がって、会場全体に大声でこうアピールした。
 「どうか皆さん、お手持ちの携帯電話の電源が入っていれば、今すぐにオフにしてください。そして今日の演奏を大いに楽しみましょう」
 そんな勇気ある忠告があったにもかかわらず、演奏が始まってからも、着信音はあちこちから響いていた。受話器を耳に当てて、そのまま話し込んでいる人もいて、少々憂鬱になる。上流の紳士淑女が集まる演奏会でこの程度のマナー。思えば、携帯電話のないころはずいぶん良かった。

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