国ってなんだろう?

アッサム、メガーラヤ、トリプラー各州を訪れてみて、インド北東部とバングラーデーシュは、別々の国であるがゆえに不利や不便を蒙っている部分がとても多いように思われる。それらは通商や水利などを含む経済活動や国土の開発全般にかかわることでもある。これらの地域がふたつの違う国家に属することから、住民たちが勝手に越境して移住すれば『不法移民』ということになる。もちろんこの隣国は近代史の中で、しかるべき経緯があって出来上がった国である。かつてアッサム州の大半もデルタ地帯に広がるこの国の前身である東パーキスターンになりかけた歴史を持つが、結局これがインドの一州として現在に至っていることもまたひとつの必然である。
時の為政者たちの綱引きによって画定された国境により、人々が暮らす土地はそれぞれの国家に従属することになる。そしてこれらを操るそれぞれの政府が人々のアイデンテイティ、思想、歴史観を規定するものとなるため、ひとつながりの地域がふたつの国に分かれて以降、地域文化や伝統のありかたにも大きな影響を与えることもあれば、隣国に対するスタンスが政争の具となり、相互に反発や敵対感情を生むこともある。これがかつてのパンジャーブ州や現在のJ&K州の不安定さにも如実に示されるとおり、地域の政情を不安定なものとすることもしばしば見られる。
そうした視点で見れば、北ベンガルのごく細い回廊部でかろうじて『本土』と接する北東諸州は、バングラーデーシュ、中国、ミャンマーといった諸手を挙げて友好的とはいえない国々に囲まれている地理条件を思えば、非常に不利であることは言うまでもない。
また人々の生活レベルではどうだろうか。もともと『本土』とはかなり違った風土や文化を持つ地域であり、とりわけ本土のマジョリティとは信条、民族、伝統どこを見ても自分たちは異なると自覚している人々が、すぐ目の前にある『隣国』よりも自分たちのほうが『インドとは違う』ことに理不尽さを感じることもあるかと思う。自分たちが国境向こう側に比較してよっぽど高度に発展していて経済的にも優位であったりしなければ、国への帰属意識よりも『占領されている』という感情が先に立ってもおかしくないだろう。インドという国への参加意識をなかなか持ちにくいのではないかと想像する。
こちら側がインドに属していること、そこに国境線があり向こうには別の国が厳然と存在していることは歴史による必然であるから、その是非について云々するつもりはない。だが人々の営みはともかく、雨雲はその境目に関わりなく大地を潤し、生物たちもまた彼らの目には見えない結界に縛られることなく行き来している(動物たちには縄張りがあるとはいえ)ことを思えば、人間という生き物がいかに特異な存在であるかということを感じなくもない。

ジープで進む田舎道

ニール・マハルの船着場から先ほどバスを降りたところに戻り、しばらく道なりに進むとモーター・スタンドがあり、何台かのバスと多数の乗り合いジープが停車していた。ここからウダイプルに行くクルマがあるのかどうか尋ねてみると、まさにこの中の一台のジープ(スモウではなく本当のジープ)がそちらへと出発しようとしていた。満員に見えるがまだ客を積み込もう・・・いやクルマの側面や後部に幾人か『つかまらせよう』としているところだった。私にはちょっと無理そうなので、次のクルマに一番乗りして運転手の隣席を確保して待つことにした。
客引きの大声に呼び込まれてお客が次々に集まってくる。ふと気づけば私が座る前の席には運転手を含めて4人、中列と後列にも4人ずつ、後部のステップに立つ者が3人、左右のドアにも幾人か貼り付いているが人数はよくわからず、屋根の上に2人。かなりの過積載ではある。加えて彼らが町で購入して各々自宅に持ち帰る野菜、米、足を縛ったニワトリなどが乗客たちの足元に転がっている。私の隣の男性は購入したばかりのダンボール箱に入ったテレビ(?)を抱えているため非常に圧迫感がある。目の前がフロントガラスで景色が見えて気が紛れるのは幸いではある。

続きを読む ジープで進む田舎道

メディアって・・・

zee news
昨年7月、ハリヤナー州のクルクシェートラ近くで、プリンスという子供が深い穴に落ち込んでしまったとき、軍までもが出動して大掛かりな救助活動が行なわれた。
A nation’s prayers save Prince』(Rediff.com)
多くのテレビチャンネルがインド全国にその進捗状況をつぶさにライヴでリポートしていたので記憶している方も多いだろう。
関係者の努力と親族の祈りの甲斐あって、プリンス・クマール少年は無事保護された。
蓋が外れてポッカリと口を開けたマンホール、工事のため深い穴が開いたままで放置されている道路、カバー無しの深い側溝等々、子供たちにとって危険な状況がいかに多く放置されているかということについてもテレビで大いに議論されていた。結局、非難されるべきはこうした状況を許している行政当局だ!というスタンスで様々な事例が取り上げられていた。少年やその家族たちにとっては大変な災難だったわけだが、こういう機会にこうした問題点をみんなで認識すること、行政当局に猛省を促すことは大いに意義あることだろう。
私自身も洪水の際、蓋無しのマンホールに落ち込んで危うく死にかけたことがある。たまたま非常に運が悪かった人間がこういう目に遭うというわけではなく、前触れもなく突然誰にでも降りかかってもおかしくない災厄だ。
あんなに大騒ぎしたにもかかわらず同様の事件で命を落とす例は続く。今日の午後はこんなZEEニュースでこんな報道がなされているのを目にした。
『ガーズィヤーバードのムスリムが多数派を占める地区、公衆便所を作る工事が進んでいた場所でモハンマド少年が穴に落ち込み救助活動が進行中』
13歳の男の子が落ちてから軍が出動して救助活動が始まるまで4時間以上もの時間が経過していること、少なくとも私がニュースを点けた時点では酸素ボンベその他、この類の事故の救助活動に提供されるべき装備が何も用意されていないとのことである。
またこの穴については、数ヶ月前から住民たちにより『このままではいつ事故が起きてもおかしくない』と当局に対する苦情が寄せられていたということだ。
同ニュースは、視聴者に『同様の危険な箇所が身近にあればぜひご連絡を!』と電話による情報提供を呼びかけている。
画面にモハンマドの父親の姿が映った。やせて小柄な男性である。向けられたマイクに対して不安で緊張した様子で訥々と語り始める。
ひとしきり彼が話した後、リポーターが彼に放った質問に耳を疑った。
『子供が穴に落ちたのは朝9時。やっと救助活動が始まったのは午後1時。そして今や午後4時半になりました。それでもモハンマドはあなたの元に戻ってくると思いますか?』
父親の表情は急変、見る見るうちに涙があふれ言葉にもならない状態になってしまう。号泣する男の様子をライヴカメラは映し続ける。
行政当局によるこれらの危険な箇所の放置と事故発生後のお粗末な対応を声高に非難するのは社会の公器としてのメディアの役目であるとしても、親族の不安をいたずらに煽りたてて悲嘆に暮れる様を映像までをも作り出す姿勢には大いに疑問を抱かずにはいられない。不幸にして事故にあった少年とその家族こそが被害者であり、ニュース映像演出の具などであってはならないはずだ。たとえその涙が視聴者の間に問題提起する内容のものであったとしても、事故当事者の心情を察するに忍びない。当事者の苦悩に追い討ちをかける取材方法は報道を口実にした暴力である。もちろんこうした事例はインドのメディアに限ったことではなく、他国でも大きな事件、事故、災害時などで同様の報道を目にする機会は少なくない。現場に急行したリポーターたちが、被害者たちに遠慮会釈のない質問を浴びせるのは当然の権利だと言わんばかりに。
こうして書いている今も、ポンプで溝内の水を抜き、救出作業が進行中だ。事故が起きたマンホール下の溝の中では酸素が不足しており、ガス(メタンガス?)濃度が高い危険な状態にあることが伝えられている。
少年が無事救出されることを祈るしかない。現場からリポートを続ける商業メディアについては、公権力を批判するとともに自らの報道の姿勢について自省と自制が必要なことを認識したうえで、思慮深く質の高い報道を心がけて欲しいものだと思う。

湖上の宮殿へ

 
バスの中で懐かしい歌を沢山聴いてしんみりしていると、車掌が声をかけてきた。
『そろそろ着くよ』
アガルタラーから50キロあまり、1時間半ほど車内で揺られていただろうか。降りたところで人に尋ねると、ニール・マハルはあちらだと教えられた。客待ちしていたリクシャーに乗り、簡素な民家が続く小道をカタコトと進む。行き止まりから先にはルドラー・サーガルという湖の静かな風景が広がっていた。
 

続きを読む 湖上の宮殿へ

どんな部屋でも予算次第! アガルタラーの新築ホテル

ここでは星をチラつかせるのが流行りのようだ。
私が宿泊しているところを含めてアガルタラーの中心部では、比較的新しいホテルの中でやたらと『三ツ星』を謳うものが多い。そもそもこの『星の数』には厳格な基準はないので、あまりひどく大見得を切ることがなければ、とりあえず『言ったもの勝ち』なのだろう。あるいは一歩下がって『州内唯一本物の二ツ星』という看板もある。これは建物の階数がやや少ないように見えたので、しばらく儲けてから上階を建て増ししたら三ツ星に昇格(?)する腹積もりなのかもしれない。
私の宿と同じ並びに建築中の大きな建物があった。内装工事中の部分を除いた半分くらいの区画はすでに営業を開始しており、グラウンド・フロアーには様々な商店、ファースト・フロアーより上の階ではレストラン、ホテル、旅行代理店その他がオープンしていた。近々銀行も入る予定であることがバナーに書かれており、なかなか賑やかなビルになりそうな予感がする。
ここのホテルもまた『正真正銘の三ツ星ホテル』を標榜している。ピカピカのフロントはまるで航空会社のオフィスみたいにキレイだ。中に入って料金を尋ねてみたが、オープンしたてだけあって対応はすこぶる良い感じであった。料金表を眺めてみると、部屋のタイプにより価格帯がずいぶん広いことに目がとまる。
幅広い料金帯

続きを読む どんな部屋でも予算次第! アガルタラーの新築ホテル