第17回アジア・太平洋賞大賞に「中村屋のボース」

 毎日新聞社による第17回アジア・太平洋賞の大賞が、中島岳志氏による「中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義」(白水社)に決定した。
 2002年に出た「ヒンドゥー・ナショナリズム―印パ緊張の背景」(中公新書ラクレ)で世間の注目を集めた同氏は、新進気鋭の研究者として今後ますますの活躍が期待されるところだ。一般読者としても、次はいったいどんな本を世に出してくれるのか大いに楽しみである。
第17回アジア・太平洋賞 大賞に中島岳志氏 (毎日新聞)

大きな国と小さな世界

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 近ごろ日本の経済誌で「インド」を扱う特集記事が増えている。このほど発売された週刊ダイヤモンド別冊は、題して「インド・中国」だ。そしてサブタイトルには「世界経済の主役になる日」とある。
 全世界の人口(65億人目前)のうち、前者は10億人超、後者は13億。つまり両国合わせると、世界の三分の一以上を占めることになるのだから、もう大変な数である。
 著名な財界人や識者などにより、経済、市場という視点によるインドの姿について、やはり圧倒的な存在感を示す中国と比較して論じているのがこの冊子である。

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パッケージツアー「ナガランド」

 世の中には、さまざまな旅行代理店が企画したいろいろなパッケージツアーがあるものだが、日本のそうした旅行会社から「ナガランド」行きのものも出ているとは知らなかった。
 なんでも「州都コヒマからトフェマ、モコクチュン、モンへと北上し、ナガ丘陵に暮らす様々な部族の村を訪れる」とあり、このツアーは「年に一度のアンガミ族の祭り・セクレニ祭」のタイミングに合わせたものであるとも、広告のウェブサイトに記載されている。来年2月下旬から3月始めにかけてのツアーで、いくつもの村々を訪れて風物を楽しむのだという。
 立ち入りが制限されており、入域許可を得るにも条件等のため、なかなか訪れることができない地域であるし、ましてや時間のない人にはそれらの手続きや交通の便の関係からもハードルが高くなる。そのためこうしたものを利用するのも悪くないと思う。
 しかし参加料金は約40万円と高額であるため、利用できる人は非常に限られてしまうのは残念である。私自身、とても手が届かない。
 行程一覧を眺めてみると、ちょうどタイあたりの山岳少数民族の村々を訪れるツアーのイメージと重なるものがある。やがて地域の情勢が今よりもさらに安定に向かい、この地域が広く外国人旅行者に開放される日もそう遠くないのかもしれない。そうなれば、官民挙げて発展を目指すのはやはり観光であろうことから、この地域行く末が見渡せるような気がしないでもない。
 ある人はそれを地域振興と呼び、またある人はそれを観光公害と表現するのかもしれない。地域のありかたは、基本的にはそこに暮らす人々が決めることとはいえ、外部からの投資家やデベロッパーのような人たちに牛耳られてしまうなんてことも往々にしてあるのだろう。これについて私自身は何とも言えないが、派手に観光化する前に訪れてみたい気もするし、そうした地域の変遷を何年おきかで定点観測してみるのも、なかなか興味深いことではないだろうかと考えている。
 期間限定の一度限り、そして人数12人までと記載されているため、とっくに募集は終わっているのかもしれない。しかしこのツアーに興味を引かれて参加するのはどういう方々なのか、という点でもちょっと関心のあるところだ。

カレーの注文 ロンドン→デリー→ロンドン

 何だか妙なことになっているらしい。
 ロンドンでインド料理を電話注文すると、デリーにあるコールセンターにつながり、そのオーダーをロンドンにある料理屋が受け取る。出来上がりを待つお客は、自分のオーダーがはるか彼方のインドを経由して近所の料理店に伝わることなど露知らず。
 日本でもNTTの電話番号案内業務の大部分が、本土よりも人件費の安い沖縄に移転しているが、コトバの壁もあり日本のコールセンターが中国や東南アジアに続々移転なんて話は今のところ聞かない。
 個人的には、「グローバル化」なるものが、果たして私たちを含めて各地に暮らす人々のためなっているかという疑問があるが、何はともあれこれを具現化するには政治体制、経済活動の自由、商工業のインフラの状態などさまざまな条件が整う必要がある。その中でやはりコトバというものは大きな障害となろう。
 外国語により提供される商品やサービスなどで、字幕や翻訳などを通じた顧客の母語による仲介なくして、日本市場で社会の隅々まで広く売ることができるのはミュージックソフトくらいではないだろうか。
 英語を自在に操れる人の割合は限られているとはいえ、総人口という分母が巨大なだけに総数で見れば相当なもの。「英語圏」がとてもなく大きな力を行使している現代社会にあって、「インドの英語力」はこの国の大きな財産であることを今さらながら感じ入る。
Indian food via Indian call centres! (MSN News)

カリブ海のインド人はどこに行った?

 来年ドイツで開かれるサッカーのW杯に、カリブ海のインド(?)とも呼ばれるトリニダード・トバゴ共和国が初出場することになった。
 この国について、Wikipediaによれば、「インド系住民41%」とある。すると代表チームのメンバーの半分近くがインド系選手ではないのかと期待して、同国のサッカー協会代表選手紹介ページをクリックしてみたのだが、どうやらそうではないようだ。人口の半数近くを占めるはずのインド系出身選手のプレゼンスの薄さは謎である。
 1998年のフランスワールドカップの際、当時の日本代表同様に初出場だったジャマイカがそうであったように、周辺国や欧州等で活躍する有望な選手ながらも代表経験のない者(サッカーで代表経験のある選手は、国籍を変更しても他国で代表入りすることはできない)に国籍を与えるなどにより、出生時の国籍は違う選手がけっこう含まれていることもあるのかもしれない。他に何か理由があるのかもしれないが、それにしても不思議だ。
 本大会出場とはいえ、アジアでは「トリニダード・トバゴ代表」はまったく未知数の存在。果たして「カリブ海のインド人」はドイツW杯のピッチにやってくるのだろうか。