ヒトラーのレストラン

Hitler's Cross
 ムンバイーのHitler’s Crossと名づけられたスポットが話題になっている。店のロゴにハーケンクロイツがあしらわれているとおり、ナチス時代のドイツのヒトラー総統がテーマとなったレストランだ。店内にはヒトラーの大きなポスターが飾られるとともに、内装はナチスのシンボルマークにある赤、白、黒でまとめられているそうだ。
 この命名についてインドのユダヤ人コミュニティからの強い反発が上がっていることを報じるロイター発のニュースがイスラエルの有力紙『HAARETZ』に取り上げられた。
 当のレストランのオーナーは『人々に即座に記憶してもらえる名前にしたかった』『ヒトラーを礼賛してなどいない』『ここはただのレストランである』とコメントするとともに、名前を変更することは考えていないという。
 遠く海外にまで報じられるほどの批判は当人の予想を超えたものであったのかもしれない。先週開店したばかりの真新しいレストランであるにもかかわらず、良くも悪くも店の名前を広く知られるようにはなった。しかし内外からの批判に加えて地元マハーラーシュトラ州を本拠地とする右翼政党シヴ・セーナーが『コミュニティ間の調和を乱す』(・・・と彼らが言うのも妙だが)として何らかの行動に出ることを示唆している。彼らの組織力と実行力を思えば、ムンバイーではむしろこちらのほうが怖いかもしれない。
 ともあれ前途多難が予想されるHitler’s Cross、ここしばらくホットなスポットであることは間違いないだろう。
Mumbai’s ‘Hitler’s cross’ eatery angers Indian Jews (HAARETS.com)
‘Hitler’ in Mumbai Annoys Indian Jews (India Daily)
・・・とここまで書いたところで『Hitler’s Cross』の経営陣が、レストランの名前を変更するとともにヒトラーのポスターを含めてナチスをイメージさせるインテリア類を撤去することに決めたと発表したとのニュースを目にした。
 結局のところ地元のユダヤ系コミュニティの抗議に加えてイスラエル政府もこの問題に干渉しようとの姿勢を見せていたことなどもあり、経営者は引き下がることにしたようだ。新しい名前は8月26日にも発表されるとのことだが、ここ数日の間さんざん内外のメディアに取り上げられたことにより、どんな大掛かりな広告を打つよりも効果的な宣伝ができたのではないだろうか。しかもタダで。
 ムンバイーのユダヤ系コミュニティやメディアを含めて『Hitler’s Cross』のネーミングについて大騒ぎした人たちはまさに『一杯食わされた』といったところかもしれない。いやはや・・・。
Hitler’s Cross to be renamed (The Hindu)
Climb down by ‘Hitler’ restaurant (BBC South Asia)

団塊パイロット、インド進出?

 日本ではいよいよ来年度あたりから団塊の世代の人々が定年を迎える退職ブームが訪れる。日本の航空業界もその例にもれず熟練操縦士たちが大勢辞めていくことになる。そんなわけでパイロット不足は何も格安航空会社がフライトを伸ばすインドその他の国々に限ったことではないらしい。
 このほど全日空が中心となり、同社から退職するパイロットと米国航空業界などでリストラされた元パイロットたちを集めた操縦士派遣会社が設立された。これで航空会社には機体を操ることのできる人材を補充し、かつ個々の有資格者の雇用をつなぐことができるという、企業と操縦士の双方にとって『渡りに船』の状況を創出したことになる。
 でもよくよく考えてみれば航空会社にとっては人件費の削減への期待が高まり、それとは裏腹に現役パイロットたちにとっては雇用条件が大幅に切り下げられることへのおそれにつながる。実はこうした状況は多くの勤め人たちにとっては対岸の火事ではないのだ。まったく違う業界にあってもこうした風潮は回りまわって自分たちの身にも降りかかりかねない問題なのでちょっと気になるところであろう。
 それはともかく格安航空会社の台頭などにより需要が逼迫している国々への派遣も計画しているとのことだ。インドの航空機に乗り込む日本人操縦士を見かけたり、日本人機長が機内アナウンスで挨拶をしているのを耳にしたりなんて日は近いのかもしれない。
「パイロット派遣します」 全日空など新会社設立へ (asahi.com)

世代が変われば世間も変わる

 8月15日から一週間経った。
 日本においては1945年8月15日の終戦、インドにおいては1947年の同じ日に達成されたイギリスからの独立。今年はそれぞれ61年、59年もの長い時間が経過したことになる。
 日本では毎年マスメディアにより首相をはじめとする政府要人たちの靖国参拝が注目されるが、今年もまたこの時期には太平洋戦争にまつわる特集番組や特別記事などが組まれていた。ちょうど年末に『忠臣蔵』のドラマが放映されるのと同じく、おなじみの年中行事となっている。
 だがそうしたもののコンテンツや論調などがゆっくりと、だが確実に変化してきているのは戦争の記憶が風化を示しているのだろう。戦時の具体的な記憶とともに当時の世相や社会背景まで理解している世代、戦後の世の中のありかたと客観的に比較をすることができる人々、となると終戦時に20歳前後になっていた人たちということになろうか。
 こうした時代の生き証人たちが社会の表舞台から退場して影響力を失うとともに、年月の経過につれて次々とこの世から去っている。実体験として戦争を語ることのできる人々が残り少なくなってきている。
 当時をよく知る最後の世代、仮にそれを『終戦時に20歳前後』という線引きをすれば、彼らすべてが還暦を迎えた1980年代後半あたりにこの世代がほぼ引退、それまで実社会で振るってきた影響力を失った時期と考えてよいだろう。
 企業の管理職や役員、役所の幹部職員、あるいは自営業者などとして、下の世代を指導叱責しながらバリバリ働いて実社会を引っ張ってきた彼らが退職し、指揮する相手を持たない一私人となったのだ。すると彼らに頭を押さえつけられていた次の世代が遠慮なくモノを言うようになってくる。
 この時期を経てまもなく戦後否定されてきたものを見直そうという動きが高まってきたように思う。それは国旗・国歌問題であり、自衛隊の海外派遣であり、東アジアの近代史への評価である。
 旧体制を知る人たちが表舞台から去ることにより、古い時代のカラーが急速に褪せてしまうことは、インドのゴアでもそうだろう。1961年のインド併合以来、リスボンからではなくデリーから支配されることに加えて国内他地域からの人口流入等もあり『インド世代』ないしは『英語世代』が台頭してくることになった。
 それでもある時期までは旧時代に教育を受けたポルトガル世代が実社会の中核を担ってきた。その彼らが引退するあたりで後に続くのはすべて『インド世代』であるから、ポルトガル色が急速に失われるのは無理もない話だ。
 またインド国内広範囲におけるサフラン勢力の台頭についても、これらと同じような要素が少なからず働いている面もあるのではなかろうか。独立闘争時代の記憶、ガーンディーが直に大衆に語りかけていたころを知る者、イギリス統治の功罪について実体験として知っており、独立後のインドと客観的に比較することのできる世代が社会の表舞台から退場した時期がちょうどターニングポイントであったように思う。
 歴史は世代が入れ替わることにより、それまでは人々の『実体験』であったものが、書物で読んだり人に聞いたりして『習う』ものとなり、人から聞いた知識だけが共有されるようになってくる。 しばしば東アジアの国々と日本の間では主に近代史における認識を背景にしばしば摩擦が起きる。  これらの国々では占領時代を忘れないよう歴史教育に力を入れているが、その『歴史』は為政者による作為により事実関係や解釈が変えられてしまうことが往々にしてある。もちろんそれは日本自身を含めてのことだ。
 それだけにこれまですごしてきた時代への評価や過去の出来事への言及のありようが変化してきたときには、その背景にあるものについて注意深くモニターしていく必要があるに違いない。

Sweet water in Mumbai

 ムンバイーで『海水が甘い!』と話題になっていることは数々のメディアで伝えられているところだが、実際のところどんな味がするのだろうか?今ちょうどその水際にいる方があれば、ぜひお話をうかがいたいと思う。本当に『甘い』のかそれとも海水なのに『塩気が感じられない』というのか?
 いずれにしてもこのウワサが本当だとすれば海の中で何が起きているのだろうか。こんな大きな話題になっている。このトピックを取り上げる地元マスコミ人たちは味見くらいしているのだろうか?
 アラビア海に面したチョウパッティ・ビーチを散策すると、しばしばコンコンと水が湧き出ている(?)様子が見られる。正体を確かめようと砂を掘り起こしてみたことがある。だが予想に反してそこには水道管だか下水管だかがあり、ここから派手に漏水していることがわかってガッカリした。同じ浜辺の別の地点でも波打ち際の砂地から滔々と湧き出る水流が出現している様子に気がついた小学生の息子に『ほら、足元に地下水脈があるんだ』と説明をしている父親の姿に思わず苦笑してしまった。
 でもひょっとするとムンバイーの沿岸の海底では本当に大水脈から真水が湧き出ているのだろうか?と思わせるような出来事だ。でも今になって急に水量が増えて『甘くなった』とするならば『ひょっとして近いうちに大きな地震でも?』と不安ならないでもない。それともやっぱり大型の配水管や下水管が破裂して海水の味を大きく変えてしまっているのか?大都会のミステリーの裏に隠された真実やいかに??
Hundreds drink ‘sweet seawater’ (BBC South Asia)

ビスミッラー・カーン没す

bismillah khan
 独立後のインドを代表する伝統音楽家、偉大なるシェナイ奏者ビスミッラー・カーンが自宅のあるバナーラスの病院で心臓発作により息を引き取った。しかし今年3月に90歳の誕生日を迎えた彼だ。まさに大往生である。
 現在のビハール州にあった藩王国の宮廷音楽家の家柄に生まれ、わずか6歳にして音楽の道に入ったという。シーア派ムスリムであるとともにヒンドゥー教のサラスワティ女神を敬愛してきた彼はこの亜大陸を占める二大宗教間の友好関係を象徴するかのような存在でもあった。
 ご冥福をお祈りいたします。
National mourning for Ustad Bismillah Khan (Times of India)