アーミル・カーンが日本人観光客に?

 ここ最近、インド在住の日本人の間でちょっとした話題になっているTVCMがある。ボリウッドを代表する人気男優アーミル・カーンが出演するコカコーラのCMである。
 完璧主義者として知られるアーミル・カーンは、最近はあまり多くの映画に出演しないが、その代わりコカコーラのTVCMには昔からコンスタントに出演してファンを楽しませてくれている。アーミル・カーンが出演するコカコーラのCMは普通ではない。毎回必ず何かに扮するのだ。彼がこれまでコカコーラのTVCMの中で演じた役は多岐に渡り、例えば、ジャート(農民)、ビハーリー、ベンガル人、ネパール人などなど。ときには女装までしてコカコーラを宣伝して来た。アーミル・カーンのTVCMで多用されるフレーズ、「Thanda Matlab Coca-Cola(冷たい飲み物=コカコーラ)」は、今やインド全土に広まっているとも過言ではない。
 そのアーミル・カーンが今回、どういう訳か日本人観光客(?)に扮することになった。それだけでも十分話題の種なのだが、その内容が日本人を馬鹿にしているように見えるため、さらに物議を醸しているような感じである。

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日本人観光客(?)に扮したアーミル・カーン


 CMの内容は大体こんな感じである。

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 あるレストランに、首からカメラを下げ、帽子をかぶった日本人観光客らしき人(アーミル・カーン)が入ってくる。店主は「日本人が来た!ぼったくりのチャンス!」ということで、メニューの全ての品物の値段に「0」を2つ付け(つまり100倍の値段!)、「いらっしゃいませ〜、ラヴ・イン・ト〜キョ〜」などと調子のいいことを言いながらメニューを出す。すると、その男は紙に注文をさらさらと書き出す。そこには「Thanda Samosa Thanda Pakoda」と書かれていた――
 【CMの途中だがここで解説】「Love in Tokyo」とは日本でロケされたインド映画で、1966年に公開された。「Thanda Samosa Thanda Pakoda」を直訳すると「冷たいサモーサー、冷たいパコーラー」。「Thanda」とは「冷たい」または「冷たい飲み物」という意味で、コカコーラ用語で言えば、これはコカコーラのことを指すことになっている(この点が重要)。サモーサーとは、ジャガイモを小麦粉の皮で包んで揚げたスナックで、パコーラーはインドの天ぷらと説明すれば分かりやすいだろう。
 ――その紙を見た店員たちは、「冷たいサモーサー?冷たいパコーラー?」と首をかしげる。なかなか店員たちが理解しないので、男は遂に怒って立ち上がり、キッチンへ行って自分でお盆に料理を乗せて戻って来る。そこにはサモーサー、パコーラーに加えて2本のコカコーラがあった。それを見た店員たちは、「ああ、『Thanda』ってコカコーラのことだったんだ」と納得する。すると、コカコーラを飲んだ男が突然ヒンディー語でしゃべり出す。「Thande ke saath khaana Changa Hai(冷たい飲み物と一緒に食べ物を食べるとうまいなぁ)」。「おお、日本人がヒンディー語をしゃべっているぞ!」と驚く店員たち。だが、男は「蜂の巣の写真を撮っていたら蜂に刺されて顔が腫れ上がってしまったんだ」と言う。実はこの男はインド人だった。蜂に刺されてうまくしゃべれなくなり、日本人観光客に間違われてしまったが、冷たいコカコーラーを飲んだら何とかしゃべれるようになったのだった。そこで決め台詞、「Thande Ka Tadka」が出て来て、CMが終わる。
 【再び解説】「Thande Ka Tadka」とは、「冷たい調味料」みたいな意味で受け取ればいいと思う。「Tadka」には「夜明け」という意味もあるが、もうひとつの「シーズニング」という意味で取った方がしっくり来る。

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 ちなみに、コカコーラのCMは毎回著名な映画監督が監督しているが、今回監督を務めたのは「Parineeta」(2005年)のプラディープ・サルカール監督である。
 このCMはふたつの意味で日本人を馬鹿にしていると言える。
 まず、膨れ上がった顔でしかも言葉がしゃべれない人を日本人観光客としている点。
 インド人から見て、日本人の顔が平べったく感じるのは仕方ない。だが、だからと言って「蜂に刺されてふくれあがったような顔」と思われているとしたら、それはちょっと侮辱的であろう。
 日本人観光客が英語をしゃべれないのは、インドの観光地では既に一般常識のようになってしまっている。観光地にいるインド人が一生懸命片言の日本語で話しかけてくるのも、日本人と英語でコミュニケーションが取れないという死活問題があったからかもしれない。また、少しでも英語をしゃべれると、インド人に「君は日本人なのに英語がうまいね」と言ってもらえるだろう。しかし、だからと言って、改めて「英語がしゃべれない=日本人観光客」という図式をTVCMで示されると、なんか侮辱された気分である。
 とは言え、アーミル・カーンの日本人観光客(実際は違うが)の物真似は、なかなか特徴を的確に捉えているのではないかと思う。インド人は一般に日本人と中国人をあまり区別していない。ボリウッド映画には、「日本人」と言いながら実は中国人が出て来ている例がいくつかある。それを考慮すると、今回アーミル・カーンが演じた「日本人観光客」は、より日本人に近づいたのではなかろうか?
 彼がターゲットにしたのは中高年の日本人男性観光客。目が細く、受け口気味で、首からカメラを下げ、バーバリー柄の帽子をかぶり、ベストを着たその姿は、日本人に見えなくもない。眼鏡をかけていればもっとよかっただろう。だが、それでもまだ中国人っぽいアクションや効果音が入っていたように見受けられた。完璧主義者のアーミル・カーンには悪いが、残念ながら彼の日本人の物真似にはまだ100点満点は上げられない。
 アーミル・カーンはトヨタのTVCMにも出演しており、日本とは比較的縁のある俳優だと言える。僕は、彼の物真似から、日本人に対する侮蔑ではなく、むしろ愛を感じた。愛がなければ物真似はできない。彼が日本人観光客の物真似を滑稽に演じたことに対して憤慨していたら、「日本人はジョークの分からない国民」とさらにネタにされてしまうのがオチだ。
 むしろ、アーミル・カーンの日本人観光客物真似よりも厄介なのは、日本人観光客から百倍の値段をぼったくってやろうとする店主の態度である。日本人観光客が、観光地にいる悪質なインド人のカモになっていることは否定しない。だが、土産物屋でぼったくられることはあれど、レストランでこのような形でぼったくられる人はあまり聞いたことがない。しかも、こんな内容のCMがインド全国(いや、衛星放送なので全世界である!)に流されたら、日本人観光客はいいカモだ、という認識がさらに広まってしまう恐れがある。
 このCMの本当の意図がどうあれ、我々日本人の多くもインド人に対してかなりステレオタイプなイメージを持っているし、それをTVCMなどで面白おかしく用いたことが過去にないとは言えないので、どっちもどっちということで受け止めておくくらいがちょうどいいのではないかと思う。少なくともアーミル・カーンの物真似に悪意はないだろう。
 ちなみに、このTVCMは4月26日からオンエアされたようだが、それほど大々的には放映されていないような気がする。このブログ記事を書くために、3日間ぐらい暇があればTVをずっと見てこのCMが来るのを待ち構えていたが、今まで1回しか見れなかった。

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9 Responses to アーミル・カーンが日本人観光客に?

  1. 生捨 says:

    自分も一回(おそらくフル・ヴァージョン)Zee Smileで目撃しました。
    内容に関して100%把握できたわけではないのですが、最後に「蜂の写真を撮ってて刺されただけだ」みたいな事をアーミルが述べてたような気がします。
    インドのコカコーラ社のサイトでこの新しいCMについての告知(http://www.coca-colaindia.c…)を見ると、「Aamir mistaken for a `Tourist’」(Story Boardの項)とも書いてありました。
    やはり「日本人旅行者と間違われた人」なオチだったのでは無いかと思ってるのですが、どうなんでしょうね〜。
    意外と待っててもなかなか放送してくれませんよね、あのCM。

  2. arukakat says:

    なるほど、蜂に顔を刺されて腫れ上がって日本人みたいな顔になってしまったインド人ということですか。それだとオチがつきますね。
    そうなると、また解釈が違って来ますね。生捨さんのコメントを参考に本文を修正させていただきました。生捨さん、どうもありがとうございました(もしかして生捨さんもこのCM、ブログのネタに狙ってましたか???)。

  3. 生捨 says:

    >もしかして生捨さんもこのCM、ブログのネタに狙ってましたか???
    ウヒョ!バレましたか〜。
    それにしても、冷たいコカコーラを飲んだおかげで腫れが少し引き喋れるようになった、という点までは思い至りませんでした。
    そういえばコーラ飲むまでは一言も喋ってませんでしたね。

  4. はじめまして。
    バンガロア在住の坂田と申します。
    インド、コカコーラ、CMで検索したところ、こちらに辿り着きました。CMの内容について、わたしもブログに書いたのですが、なにぶん、ヒンディー語が理解できず、中途半端なレポートとなっています。もし差し支えなければ、こちらの記事にリンクをはらせていただきたいのですが、よろしいですか?
    ところで、とても内容の濃いサイト、ブログですね。今後また、寄らせていただきます。

  5. arukakat says:

    どうも、坂田さん、バンガロアご在住なんですね。え、バンガロア?ブルガリアとかそっちの方の国でしょうか?というのは冗談で、バンガロールですね。どうも、初めまして。
    ブログ、ちらっと見させていただきました。リンクはもちろんOKです。もし差し支えなければ、僕のメインHPである「これでインディア」からもリンクさせていただきます。
    ところで、CMはインド人の旦那さんに解説してもらったんですね。しかし、「攻撃」し返すという部分が僕には少し分かりませんでした。そんなこと言っていましたっけ・・・?
    最近このCMは、日本人からの抗議があったのか、ショートバージョンしか放送されなくなってしまいました。コカコーラのHPで公開されると検証に便利なのですが・・・(さすがにこのCMだけを待ち続けるのは疲れました)。

  6. arukakatさま
    リンクの件、ご快諾いただきありがとうございます。早速、リンクさせていただきました。そちらのメインHPからも、我がサイトをリンクしていただけるとうれしいです。
    ところで、CM、やはり抗議があったのでしょうかね。ショートバージョンしか放送されなくなったと知ると、もっとちゃんと見ておけばよかったと、ちょっと残念です。

  7. Tamon Yahagi says:

    こちらで映像が見れますね。
    http://www.youtube.com/watc...
    食べる感じ、いかにもステレオタイプな中国人っぽいアクションだなぁ、と感じました。音楽も中国っぽいし。
    まあ日本でも、インドをイメージしながらも、中近東の音楽や衣装…ということありますし。そこらへんの的確な真似はまだまだ難しいのかも。
    それにしても、ゼロふたつ増やし作戦は、早くも観光地各所で実戦されそうでイヤだなぁ…。(苦笑)

  8. guccie says:

    以前はパイサの.00をそのままルピーだというひどい奴らがいたのは事実ですが、近頃はもうパイサの部分の表示はなくなりましたか?

  9. arukakat says:

    >tamonさん
    便利な世の中になったものですね。インドのCMを繰り返し見れるとは。この映像をもとに全セリフを書き起こそうと思い立ちましたが、セリフにいくつか不明な点があり、行き詰っております。「utaarna」の解釈が難しい・・・。
    >guccieさん
    そういえば、インドの価格表示にはよく「/-」という記号が使われます。例えば500ルピーだったら「500/-」とか。それを見た日本人が、「5001」ルピーだと勘違いして支払ってしまった、という話を聞いたことがあります。
    パイサーをルピーだと言う手口は聞いたことがありません。ルピーをドルだと主張する手口はいつぞやの「地球の歩き方」に書いてありましたね。

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