インド人向け旅行ガイド

 先日、ヒンディー語書籍の本屋を物色していたら、ふと目に留まった1冊の本があった。その名は「India Ghumo」。意味は「インドを巡れ」。中をめくって見ると、ヒンディー語の旅行ガイドブックであった。北インド編ということで、デリー、ヒマーチャル・プラデーシュ州、ジャンムー&カシュミール州、ウッタラーンチャル州、ウッタル・プラデーシュ州、パンジャーブ州、ハリヤーナー州、マディヤ・プラデーシュ州、ラージャスターン州の主な観光地が掲載されていた。また、列車の時刻表が付録で付いていた。値段は125ルピー。発行者はウダイプルのプラーン・バプリケーションという出版社。初版は1999年発行で、2005年に第二版が発行されたようだ。

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India Ghumo


 ヒンディー語で書かれているということは、つまり完全にインド人向けの旅行ガイドブックということである。オールカラーで、豊富に写真が散りばめられており、最近のガイドブックの流行にちゃんと付いていっている。だが、やはり内容には、他のガイドブックとは違う点が見受けられて興味深かった。
 観光地の簡単な説明、市内マップ、観光情報局の住所、交通手段、主な宿泊先が掲載されているのは普通のガイドブックと同じだが、まず気付いたのは、食に関する情報が全くないこと。ナワーブ料理で有名なラクナウーですら、食に関する記述は一言もない。インド人にとって、旅行先の食の情報は不要ということだろうか?確かにインド人はあまり外食をしないし、旅行中に自炊したり、十分な量の食料を抱えて旅に出たりすることが多い。それに、ユニークな食文化を持った観光地というのは、いくつかの例外を除いてインドにはあまりないかもしれない。僕自身もいつしかインドの旅行先で食に期待を寄せることはほとんどなくなってしまった。
 次に気付いたのは、宗教的巡礼地の充実度。やはりインド人の旅行の動機のナンバー1は巡礼であり、インド人向けの旅行ガイドに巡礼地は外せないのだろう。その記述の充実度は、ロンリープラネットの手の届かない部分まで網羅していることからも明らかである。例えば、ウッタラーンチャル州の4大聖地(ヤムノートリー、ガンゴートリー、ケーダールナート、バドリーナート)はそれぞれ手抜きなしに解説されているし、ジャンムー&カシュミール州の有名な巡礼地アマルナートやヴァイシュノーデーヴィーもバッチリ収録されている。ウダイプルで発行された本のためか、ウダイプルやその周辺部の観光情報はやたら詳しい。寺院の開いている時間まで載っているくらいの充実ぶりだ。
 巡礼地に次いでインド人が大好きな旅行目的地は避暑地であるが、やはり主な避暑地の情報もよく押さえられていた。
 ショッピング情報も充実している。主要都市の項には、「Kya Khariden?(何を買ったらよいか?)」というコラムがあり、その町で手に入る特産品が羅列されている。例えばシムラーの項では、「ザ・モール(日曜定休)、ローアー・バーザール、ラッカル・バーザールなどで、毛織物、カーペット、既製服、クッルー帽子、ショール、ヒマーチャルの装飾品、キンナウルのマフラーとドゥパッター、チャンバーのハンカチ、仏教タンカ、カーングラーの細密画、中国製靴、木製美術品、宝石、シャルバト(飲み物)、ジュースなどがお買い得である」と書かれている。インド人は旅行中、食には期待しない代わりに買い物にはかなり精を出すことが伺われる。
 少し気になったのは、紛争地域に関する記述である。例えばアヨーディヤーの項にはラーム生誕寺院の説明があったが、「ラームが生まれた場所」としか書かれておらず、バーブリー・マスジド破壊事件のことは触れられていなかった。そういえば、この本には他のガイドブックにありがちな治安情報などは一切ない。ジャンムー&カシュミール州の章の冒頭部にも、「カシュミールはムガル朝の皇帝が『この世の天国』と呼んだ」「カシュミールはその比類なき自然の美しさにより世界的に知られている」「ジャンムーとカシュミールは、豊かな歴史と文化を持っており、全ての宗教の人々が暮らしている」などとのみ書かれており、頻発するテロ事件に関しては一言も触れられていない。
 また、全てヒンディー語で書かれているため、個人的には地名のヒンディー語表記を知るのにとても役に立つ。
 インドのマニアックな観光地を旅行する際、最も詳細な情報が期待できるガイドブックは今のところロンリープラネットであるが、もしかしたらこのインド人向けのヒンディー語旅行ガイドブック「India Ghumo」は、さらにマイナーな観光地へ導いてくれる貴重な案内書かもしれない。僕の手元にあるのは北インド版のみだが、他の地域のバージョンも出ているはずであり、もし見つけたら買い集めようと思う。地域ごとに分割したヴァージョンの他に、インド全国版もあるかもしれない。

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3 Responses to インド人向け旅行ガイド

  1. says:

    「宗教的巡礼地の充実度」ではこんなガイドブックもありますね。
     Holy Placesand Temples of India
      by Jada Bharata Dasa
       Spiritual Guides Practical Travel
    は著者実はアメリカ人John Howeley。ISKCONのメンバーで10回渡印、延べ4年間インドで過ごしたとあります。
    2段組672ページもあって詳細な本
    です。

  2. arukakat says:

    イーさん、本のご紹介ありがとうございました。
    新聞で読んだところ、最近、インドを自家用車で気ままに旅行するためのガイドブックが発売されたようです(本屋で見つけたら購入予定)。
    やはり巡礼がインド人の旅行の最も大きな動機ですが、インド人がインドを「観光」旅行し始めたのが、ここ数年の大きな変化だと思います。インド人の海外観光旅行も増えていますが、インド人にとってヴィザが大きなネックとなっている模様。大使館に何度も何度も足を運んで苦労するよりは、国内を家族で気ままに旅行した方がいい、そもそも海外まで行かなくてもインドに多くの魅力的な場所がある、とインド人が気付いてきたように思います。

  3. ogata says:

    以前、その初版を購入しましたが、ビハール(当時)のジャムシェードプルの案内が掲載されており、見どころのひとつがTESCOの製鉄所とか。(前もって予約すれば見学できるように書いてあるけど・・・) またネパールはほとんど国内としての扱いであったり。でもやっぱり視点が違うので、よくよく気をつけて読めば参考になることも多いようですね。
    初版はページ数や記載内容もまだ貧弱だったものの、巻頭の前書きには当時ラージャスターン州首相のアショーク・ゲヘロートやウダイプルの王家当主の挨拶文が掲載されていたりして、なかなか力のこもった雰囲気を醸し出してましたが、今やかなり立派なガイドブックに成長しているようで、なんだかうれしくなります。
    India Ghumoでどこか穴場を発見されたら、ぜひ旅行記をアップしてください。

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