インドの野良犬

 インドの犬は元気がない。なぜかみんなショボンとしている。トボトボと歩いている。グッタリと道路に横になっている。まるで全てを諦めてしまったかのような表情をしている。「どうせオイラは犬ですよ」という顔をしている。日本の犬と比べると大違いだ。日本には最近野良犬が少なくなったが、記憶の中にある日本の野良犬はけっこう獰猛だったように思える。給食の残りをランドセルに入れて下校していた小学生が野犬に襲われたりしていた。飼い犬ともなれば全くいいご身分である。それに比べてインドの犬はかなり元気がない。おそらく犬もカースト制度を受け容れているのだろう。犬は犬らしく、それが美徳なのだ。


 最近インドでも犬をペットとして飼う人が増えてきた。もちろんペットを飼えるのは富裕層のインド人だが、スラム街の人々も負けじと犬と共生している。僕の家の前には大きな公園があるので、公園に飼い犬と散歩しに来る人を多く見かける。しかし日本とは違って、飼い犬と一緒にいる人に、犬に対する愛情はほとんど感じられない。なぜなら彼らは使用人だからだ。インドでは犬の散歩は使用人の仕事になる。犬はペットなので非常に大事に育てられるが、使用人は犬よりも冷遇されることが多い。オレは人間なのに犬以下か・・・。だから使用人がご主人様のペットに愛情を注げるはずがない。まるで犬を引っ張るようにして、ルーチンワークで散歩を行っている。
 インドでも野良犬対策は徐々に行われているようだ。インドには殺生を嫌う風習があるから、日本の保健所みたいに野良犬を始末してしまうことはないと思っていたが、野良犬らしき犬たちをたくさん乗せたトラックが走っているのを見たので、もしかしたらそういうこともあるかもしれない。それか、郊外に捨ててくるのだろうか。野良犬の狂犬病予防接種をしている団体もあると聞く。
 野良犬同士が喧嘩を始めると、インド人は「ヤッ!」「ハッ!」などと掛け声を掛けて犬たちを叱る。人間の子供たちが喧嘩を始めても、牛たちが喧嘩を始めても、インド人は親であろうがなかろうが持ち主であろうがなかろうが同じように叱る。犬たちが道路の真ん中で交尾を始めるとニヤニヤ笑う。
 野良犬は普段、人間とはあまり関係ない生活を送っている。道行く野良犬は人間などお構いなしにたくましく生きている。しかし彼らには人間の心のほんの少しの動きを敏感に察知する力がある。何も考えずに歩いていると、野良犬たちは通り過ぎていくが、ふと野良犬に目を留め、少しでも憐憫の情を投げかけると、その犬はそれを察知し、急に後をついて来るようになる。どこまでも、どこまでも。
 昔、夜中に道を歩いていたら、全身の毛が抜け落ちてボロボロの風貌をした野良犬がじっとこちらを見ていた。「かわいそうだな・・・」そう思ったら、急にその犬が僕の方にやって来た。やばい、と思ってそのまま歩いて行ったら、犬が後をついて来てしまった。家に着き、階段を駆け上ったのだが、犬まで階段を上ってきてしまった。僕の家は5階にあった。急いで階段を上りきり、慌てて家の扉を開けて中に入って閉めた。しばらく外で「ク〜ン」という鳴き声がしていたが、しばらくしたら諦めたのか、何も音がしなくなった。恐る恐るドアを開けてみると、そこには何もいなかった。
 インドの乞食も、少し注意を向けると脈ありと思うのか、しつこくつきまとってくる。インドの乞食も野良犬も、同じような性格をしている。両者とも、インドの道で生きていくためのテクニックを自然と身に付けたのだろう。

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2 Responses to インドの野良犬

  1. Furui says:

    デリーでもうちの近所だと、チョウキダールのおじさん達が野良犬を随分可愛がっています。食事の残りをあげたり、寒くなってきたので廃材を使って家を作ってやったりと。怪我をした時など病院にも連れて行ってあげているようで、包帯や縫合の跡を見かけることもあります。過酷な状況で働く彼らにとっては、犬達は最良の友なのかもしれません。

  2. kuriko says:

    野良犬といえば…グルガオンのはかなり凶暴でホント怖い。目つきも悪〜っでハリアナ臭プンプンと言う感じです。ちなみにうちのマンションではエレベータが綺麗な「住民用」と小汚い「使用人・犬・荷物用」に分かれています。ワンコはたとえ飼い主と一緒でも小汚い方に乗る羽目になります(飼い主共々)。とはいえ、犬を飼う者数いれど、飼い主本人が散歩させてるのはほとんどいないんですけどね。公園には入れないし、かといって空き地は野良犬が集団襲撃仕掛けてくるし、飼い犬もなかなか苦労してマス〜。

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