変な日本語の出版物

 インドの観光地に行くと、その観光地の見所などが解説された日本語のパンフレットや書籍などを目にすることがある。パラパラとめくってみると、すぐに「これは日本人が書いたものじゃないな」と分かる。日本語だが日本語じゃない日本語で書かれているのだ。日本語を勉強した現地人が翻訳したり書いたりしたんだろうことは容易に想像がつく。これはインドだけでなく、世界中で起きている珍現象であろう。
 さて、今、僕の手元にひとつの原稿がある。ジャワーハルラール・ネルー大学(JNU)の日本語科で4年間日本語を勉強している僕の友人のインド人が書いたものだ。デリー、アーグラー、ジャイプルの見所について英語で書かれた写真集と解説書を、出版社に頼まれて日本語に翻訳したという。その日本語のチェックを頼まれた。
 その内容をちょっと勝手に抜粋してみよう。
「タイムルレンは侵入した後、心に痛手したデリーは多くの貴族の目的でしたが、ロデ王朝はデリーをやっと勝ちました。領土をよく統治するようにシカンダルロデ王はデリーからアグラに移して政治的な中心地に変えました。」
「統治期間は短くてもババル氏は対称小道、噴水及び流水のあるラムバグを建設しました。息子さんのフマユン氏はデナパナーという新首都に移しましたが、一番有名な支配者のアクバル氏はもう一度アグラに戻ってからたくましい城を建設しました。」
「王位継承権ための血なまぐさい戦いが起きた後、シャハザハ氏は権力に座につき30年間にわたって支配しました。自分の治世に商人、宝石職人、職人、詩人、歌手、画家、などを勇気づけ後援しました。けれども、シャハザハ王をくたくたにさせてから奥さんのムムタズは治世の4年に死にました。」


 どっから手をつけていいのやら分からん・・・。こんなのが延々と15ページ続いている。シャハザハ王をくたくたにさせて死んじゃったムムタズって誰じゃい!?
 今の僕は、日本語でない日本語で書かれた本の出版物を1冊、努力次第で止めることができる立場にある。僕が時間をかけて手直しをすれば、何とか日本人が読んでも変に思わない文章が書かれた写真集が出来上がるだろう。しかし、それをやるためには、第一に、僕にそれだけの時間的余裕がなくてはならない。そんな時間はない。第二に、完璧な日本語を追求したら、結局インド人の友人が翻訳した部分はほとんどなくなってしまい、僕の翻訳になってしまうだろう。というか、僕が英語の原本から直接翻訳した方が絶対に早いし正確だ。いっそのこと僕が金をもらえるならやってもいいが、そういうわけには行かなそうだ。
 最初は断ったのだが、「頼れるのは君しかいない」「日本人は他にもいるが、ヒンディー語が分かるのは君だけだ」「これじゃあ今までの努力が水の泡になっちまう」という自分勝手な説得をされ、渋々チェックをすることを承諾した。ただし、条件として、僕は最低限の間違いの修正だけに留め、後は放置することにした。完璧主義者の僕には苦汁の決断だが、特に親友でもないインド人のためにそこまで親切にする必要もないだろう。チェックしてあげるだけでも僕はかなりのお人よしだ。ていうか、彼とは図書館で一言二言しゃべっただけの仲だったじゃないか。何でこんな面倒なこと頼まれてんだ、僕?考えれば考えるほど落ち込んでくる。インドとインド人を愛しているはずの僕が言うのも何だが、インド人との友情の代償は・・・高い・・・ことが多い・・・。
 何はともあれ、またひとつ、おかしな日本語の出版物がこの世に誕生してしまうだろう。その責任の大部分は僕にあるのかもしれないが、後世の歴史家は、この文章を読んできっと僕に同情してくれることだろう。一応彼には、くれぐれも僕がチェックしたなんてことを他人に言わないよう、また、僕の名前をこの本のどこにも載せないよう、念を押した。そうでなければ末代までの恥である。

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5 Responses to 変な日本語の出版物

  1. 内藤 says:

    僕の奥様も、昔は「薬を食べる」とか言ってましたね。

  2. arukakat says:

    「薬を食べる」くらいは無視してあげてもいい間違いなんじゃないでしょうか?

  3. 内藤 says:

    というか、最近では僕のほうが間違いだらけの日本語で、しょっちゅう訂正されてます(^^;

  4. arukakat says:

    言語というのは常に変わっていくものなので、内藤さんは日本語ネイティヴ・スピーカーとして自信を持たれた方がいいと思われます。例えば「ら抜き言葉」なんか、標準文法的には誤りですが、日常会話では既に市民権を得ていると思います。

  5. まー says:

    こんな感じ方向性でもっともっとひどくしたのが私の英語だと思います;;
    コルカタ出身の人は「薬を食べる」のみならず「キスを食べる」とか言いませんか・・?

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