現実世界のスラムドッグ$ミリオネア

 現在世界中で話題を独占中の英国映画「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年)。ムンバイーのスラム出身の若者が、人気クイズ番組「Kaun Banega Crorepati(クイズ$ミリオネアのインド版)」に出演し、見事2千万ルピー(4千万円)の賞金を獲得するまでを描いた作品である。
 インドでは1月23日に公開されたが、評価は賛否両論に分かれており、今でも映画に対する論評が新聞などに掲載され続けている。映画中にも名前だけ登場したボリウッド映画界のスーパースター、アミターブ・バッチャンが、「スラムドッグ$ミリオネア」についてコメントをした、しないというすったもんだがあったのも記憶に新しい。
 批判的な意見の中では、「インド=貧困」というステレオタイプな先入観を西洋人が未だに引きずっていることを非難するものが多いのだが、「映画のストーリーは現実的ではない」というピントの外れたものも散見される。映画を最後まで見ればはっきりと、スラム出身の若者がクイズ番組で大金を手に入れるストーリーは「It is written(フィクションです)」と書かれており、ダニー・ボイル監督が決して準ドキュメンタリー映画のつもりでこの映画を撮ったのではないことは明らかである。
 しかし、実は貧しい人がクイズ番組で多額の賞金を獲得するという出来事は、過去に全くなかったことではない。2009年1月13日付けのヒンドゥスターン紙による。


 マハーラーシュトラ州アコーラー県バープーナガル出身のガンシャーム・バーマン(35歳)は、ブリハンムンバイー市局でスイーパー(掃き掃除人)の仕事をする貧しい人物である。彼の家の神棚には、ヒンドゥー教の富の神であるラクシュミーとガネーシュと共に、映画スター、サルマーン・カーンの写真が祀られている。その理由はと言うと・・・
 以前、ガンシャームは借金に苦しんでおり、借金取りの取り立てに耐えかねて、自殺すら考えていた。起死回生のため、彼はソニー・エンターテイメント・テレビジョン(SET)が放送するサルマーン・カーン司会のクイズ番組「10 Ka Dum」に出演した。そこで彼は見事15万ルピーの賞金を獲得し、借金を返済することが出来たのであった。そのため、今ではガンシャームはサルマーンを神様として信仰しているのである。
 ムンバイーでオートリクシャー運転手を生業とするヴィシャール・ナートケーも同じような幸運に巡り会った人物である。彼はムンバイーのヴォーリーヴァリーで妻、母親、8歳の息子と暮らしているが、17万5千ルピーの借金があった。一攫千金を夢見て「10 Ka Dum」に出演したヴィシャールは、対戦者のインド工科大(IIT)卒のエリート・エンジニアを打ち負かし、見事100万ルピーの賞金を獲得した。
 このように、インドでは多額の賞金が用意された一般人参加型番組がヒットしており、借金に苦しむ貧しい人が背水の陣で番組に挑戦し、見事多額の賞金を勝ち取って人生を立て直すような例はいくらでも見られるようである。「スラムドッグ$ミリオネア」のストーリーは全く非現実的とも言えない。

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5 Responses to 現実世界のスラムドッグ$ミリオネア

  1. 生捨 says:

    どーもどうもです。メインの日記のほうの映画評も興味深く拝見いたしました。
    いろいろと議論が盛り上がってるようですね。自分が目にした批判では、「なんで“犬”じゃい!スラム“ボーイ”でよかろーもんが!」ってのが些末すぎてアホだと思いました。
    ちなみに、
    >「It is written(フィクションです)」
    最後のあれって、ジャマールがクイズで勝てた理由を問う冒頭の四択問題の解答「D:運命だから」の意味以外にも、ダブルミーニングかかってたんでしょうか。
    (上で批判しときながら、自分も些末な話ですいません・・・。)

  2. おぷー says:

    実話が少し入っていたとは知りませんでした。
    こちらNLでは、明日公開です。
    絶対観に行く積もりです。
    解説、ありがとうございます。

  3. アルカカット says:

    >生捨さん
    「D: It is written」の第一義は多分「運命です」だったと思います。でも、その次に「D」の文字だけ残って、続けて「Drected by Danny Boyle」と表示されていたように覚えていますので、「フィクション」の意味も入っていると受け取るべきだと捉えました。
    >おぷーさん
    実話が入っていたというより、
    映画と似たような話があったよ、ということです。
    また感想をお聞かせ下さい。

  4. ほい says:

    レヘマーン、オスカーとりましたね。
    授賞式をみて気になったのですが、アメリカやヨーロッパで上映されたスラムドッグ$ミリオネアには、キスシーンがあったのでしょうか? シンガポールで見たのですが、ラティカーの頬の傷にキスしてました。日本ではどうだったのかな?

  5. アルカカット says:

    >ほいさん
    インドで上映された映画にはキスシーンが確かあったと思います。

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