DVD「モンスーン・ウェディング」

 先日、日本で発売されている「モンスーン・ウェディング」のDVDを借りることができたので、早速見てみた。
 ミーラー・ナーイル監督の「Monsoon Wedding」は、2001年に公開され、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した名作ヒングリッシュ映画である。2002年以降のヒングリッシュ映画ラッシュは、この映画の影響により始まったと言っても過言ではない。日本では2002年8月17日から一般上映された。
 2001年と言えば、僕にとって留学初年。もちろん、「Monsoon Wedding」は映画館で見た。だが、あのときはヒンディー語もままならなかったし、この映画にはパンジャービー語も多用されているし、そもそも基本的に英語映画なので、完全に内容が理解できたとは言えなかった。さらに、インドの文化に対する理解も足りなかったし、インド独特の情感にも染まっていなかった。あれからインドで5年を過ごし、改めてこの作品を見て、本当にいい映画だと思った。国際的に高い評価を得た映画なので、インドのことを知らない人でもこの作品の素晴らしさを理解できたと言えるのだろうが、さらにその深みにある情緒を感じ取るには、やはりインドにドップリ浸かってないと無理だろうと感じた。
 2001年に見たときは、出演者は知らない人ばかりであったが、今見直してみると、けっこう有名な俳優が出ている。ナスィールッディーン・シャー、リレット・ドゥベー、クルブーシャン・カルバンダー、ラジャト・カプール、ランディープ・フダーなどなど。特にヴィジャイ・ラーズが素晴らしい演技であった。ミーラー・ナーイル監督のインタビューによると、彼のいくつかの演技はアドリブだったらしい。監督もヴィジャイ・ラーズの才能を認め、彼の出番をドンドン増やして行ったという。「Monsoon Wedding」の影の主役は彼だろう。ただ、メイドのアリスと結婚するところは端折っていたように見えた。普通、メイドが主人の家族の結婚式の式場造営に来たイベント・マネージャーとその場で結婚してしまうなんてありえないだろう。それこそ大スキャンダルである。その論理的飛躍を、ロマンチックにまとめてごまかしていたように思えた。
 「Monsoon Wedding」は2000年頃のデリーでロケされたため、当時のデリーの風景を見ることができるのも面白かった。今はもう伝説となってしまった悪名高き青バスが走っているのを見れたのが一番感動した。


 DVDには日本公開時の劇場予告編がオマケで収録されていた。別に悪くなかったのだが、日本の配給会社が勝手に付けたキャッチコピーが気になった。まずは日本版予告編バージョン2に出て来た以下のキャッチコピー。
  「セレブリティな家族の愛と涙の人間賛歌」
 「セレブリティ」という言葉は非常に曖昧な言葉だと思うのだが、この映画は決してセレブリティの結婚式を描いたのではなく、「どこにでもいる普通の上位中産階級の結婚式」を描いた映画である。DVDに収録されているメイキング映像でも監督が自らそう語っている。そしてそこで描かれていたのが非常に「リアル」な人間模様であるため、インドでも話題を呼んだのである。セレブリティの結婚式を見たかったら、普通のボリウッド映画を見れば事足りる。どうも一般の日本人には、インド人一般が結婚式にどれだけ金と労力をつぎ込むのか分からないようだ。それに、「モンスーン・ウェディング」の結婚式は、はっきり言ってどちらかというと地味な方である。親戚が米国、欧州、中東、オーストラリアなどに散らばっているのも、上位中産階級の家族ではごくごく普通のことだ。
 そして最も気になったのは、日本版予告編バージョン1の最後に出て来る以下のキャッチコピー。
  せつなさも
  さみしさも
  かなしみも
  雨のち晴れ
 ご丁寧にも、男声によるナレーション付きであった。だが、これを考えた人は全く分かってない。インドのことを微塵も分かっていない。いや、みんながみんなインドのことを知っていなければならないわけではないが、それでも映画をちゃんと見たら、こんなキャッチコピーにはならなかったのではないか。一番問題なのは最後の「雨のち晴れ」である。そもそも映画の最後で雨が降り出した後、晴れていなかったではないか。女性たちが雨の中で嬉しそうに踊っていたのを見落としてしまったのだろうか。家族も親戚も裏方もメイドも一緒になってずぶ濡れになって踊っていたのが目に入らなかったのだろうか。
 インド人にとって、雨とはせつなさの象徴でも、さみしさの象徴でも、かなしみの象徴でもない。雨は喜びの象徴であり、再生の象徴であり、愛の象徴である。農業国の国民ならこの感情は理解できないことないと思うのだが(日本の昔話にも「恵みの雨じゃ〜」みたいなセリフが出て来る)、もはや日本人には農民の気持ちが残っていないのだろうか?
 そういう意味では、バージョン1、2両方に出て来たもう1つのキャッチコピーはほぼ正確に映画の核心を捉えていた。これは合格である。
  「モンスーンの雨がやさしく全てを包みこむ」
 ただ、「やさしく」はなくてもよかったかもしれない。モンスーンの雨は決してやさしくないからだ。・・・なんか偉そう?じゃあひとつ例を示せって?う〜ん、こんなのはどうでしょう・・・。
  喜びの涙も
  悲しみの涙も
  モンスーンの雨が
  洗い流す
 ありきたりか・・・。

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4 Responses to DVD「モンスーン・ウェディング」

  1. emi says:

    私は、地元の「インド映画祭」で『monsson wedding』を見ました。
    私も、ヴィジャイ・ラーズの演技が一番印象に残っています。
    すごくいい映画でした。といっても、アルカカットさんのおっしゃるように、インドのことを理解していない私は、「その深みにある情緒」までは感じ取れなかったのが残念。
    また見たいです。

  2. arukakat says:

    >emiさん
     「深みにある情緒」を言葉で説明すると、関係者の間でいろいろトラブルや口論などが発生しながらも、なんとなく物事が進んで行き、何だかんだで最後はみんな笑顔、といったインド特有のイベント進行です。僕はそれをインドの伝統的芸術理論のナヴァラサ理論とも結びつけて考えられるのではないかと思います。インドの道路事情もそれが当てはまります。インドのイベントっていろいろ嫌なこととか腹立つことが多いのですが、それが終わったときには不思議な満足感があったりするんですよ。

  3. Dominique says:

    はじめまして。
    ホームページは何度か拝見していますが、こちらには初めて来ました。
    Monsoon Weddingは人生で2番目に観たインド映画です。他にはボリウッド映画を何本か観たのですが、ブログを拝見して今更「なるほど」と思いました。ということはDil to pagal haiやGuruでも雨のシーンで喜びを表現してるんですねー。

  4. arukakat says:

    >Dominique様
    返信遅れまして申し訳ありませんでした。
    ボリウッド映画では、雨は日本とは違う心情を表すので、注意が必要ですね。

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